中高年michiのサバイバル日記

世の中のこと、身の回りのこと、本のこと、還暦の中高年がざっくばらんに書きつける日記

「死」の臨床学(読書感想文もどき) 実体験と広い教養ベースの村上陽一郎氏の深い思索

f:id:xmichi0:20191115105128j:plain

「死」の臨床学(村上陽一郎

<死>の臨床学 
超高齢社会における「生と死

 村上陽一郎 / 著

新曜社 2018.3 

  1.概要

著者の村上さんは1936年(昭和11年生まれ)

あとがきに「平成29年の終わりに」とありますから、82,83歳ころ

の執筆でしょうか。頭が下がります。

村上さんは、科学史家・科学哲学者です。

上智大、東京大、国際基督教大他で、勤務とあります。

お父さんは医者であり、村上さんが高校3年の時に亡くなられた

ようですが、

別の著書で大正の教養主義時代の学生を体現する人物の一人と

して出てきます。

 さて、本書は

 安楽死尊厳死)、緩和医療、終末期鎮静、臓器移植、介護など

の問題を論じています。

 村上さんの個人的な体験として日本医療を見てきた歴史も面白

いし、老いや死について、万葉集、中国詩人の七言詩、ソクラテス

から始まる西洋哲学、葉隠れ、といった引用分析に加え、リチャー

ド・ドーキンスン「利己的な遺伝子」コメントはじめ生物学的見地

も入ります。

  実体験と広い教養をベースとした村上さんの深い思索が、解り

 やすく書かれている(といっても私の未消化も多々ですが)

と思います。 

 構成を書くと

序 章 日本の医療 ーー純個人的な体験記

第1章 戦後の医療改革

第2章 日本の医療ーー国際比較の中で

第3章 老いと死の諸相

 1 老いと死の諸相

   2  医療における死

第4章 死の援助

第5章 終末期鎮静

第6章 生きるに値する命

終 章 ささやかな、ささやかな提案

  2.ピックアップとコメント

 いつものように( )内が私のコメントで、太字は私がつけたもの

➀ 「戦後の医療改革」部分から

・胎児条項に挙げられた障害の持ち主が、現代社会に生きている場合、胎児条項の
 存在は、自らの生存する権利を問われていることになり、これは
人権上許容し得ないという判断も必要となる。(P42)
(これは、とても難しい)
 
・社会システムとしての日本の医療制度の現状は、他の先進国と
比較して 十分世界に誇ることができる(P55)
 (こちらは、割とコンセンサスでは?)
 
②「日本の医療(国際比較)」から 
・日本は1961年に国民皆保険米国はオバマケアでかろうじて
 制度化(P62)
アメリカでは、まだ半数近くの人々が、実質上無保険状態(P64)
共和党は、公的な医療保険(への強制加入)憲法の精神に違背
 するとさえ主張する (P65)
アメリカでの個人の自己破産の6割は、医療費の請求に由来
・(アメリカでは)高度医療の受益者が、社会の中では極めて僅か
 の富裕層に限られてている点
  (この辺りは、ある程度認識してましたが、自己破産の6割が
 医療費に由来するとは、とても高い比率ですね。
 アメリカは敗者復活の社会であり、新陳代謝が進む社会と
 聞きます。
 日本もそれを追いかける傾向もあり、老失く男女が、大組織を
 離れて、自分で勝負しようとする気概は、必須ですし、それは
 いいことと思います。
 また、その傾向も加速しています。
 アメリカのように、「バックに大きな組織がないと、求める
 医療サービスが 妥当な価格での受けられない」とまでの心配
 は考えなくていいから、
 仮に、起業や自営がうまくいかなくても、医療面では日本は、
 セーフティネットというか現在はまだ幸せなインフラがあり、
 恵まれていると思います。)
 
・老自医療費の2割、3割負担は軽い方
「歴史になかでは、受益者である患者の「全額負担」が当然のこと
とされてきた時代が長かった」(P70)
(国にも、お金がないし本人負担割合は必然的に上がっていくで
 しょう。)
  
③「老いと死の諸相」から
生き残る主役は遺伝子であって、
自己保存、継続性のためプログラミングされている
個体は単に運び屋(ヴィークル)にすぎない(P84)
 
・(村上さんの考察)
有性生殖のつじつま合わせ
「遺伝子型」の記憶として、同型の交配より、異型の交配の方が、
自らの保続に有利だから(P88)
 
 (「獲得形質の遺伝」が理論面でも実際面でも否定されていること
  に関して)
・こうした二次的に獲得された機能や性質は、次世代への連続性、
 保持性は期待できない、この厳しい現実こそ、人間の死の持つ
 決定的なポイントであろう。(P90)
 
・死によって生まれる非連続性。断絶を乗り越えようとする
 人間の二次的な生産物の総体を、私たちは「文化」と呼ぶ(P90)
 
・(動物においては「老い」即「死」であることをふまえ)
 人間だけが、生きるに当たって、死を考え、死を人生の旅路の
 究極点に見据えることで、生きている動物ということになる
 (P92)
 
④ 「死の援助」から
先進国での自死をめぐる新しい動きに考慮すべき2つの論点
   ●自己決定権、あるいは自己裁量
   ●人間の尊厳            (P125)
 
・通常は自死を認めないキリスト教内部であっても
 他社への愛が、自己の生命の維持に優先するという場合は
 「自死とは認めず人間同士の間に存在する「愛」の行為とす
 ることで、容認するどころか、賞賛の対象としてきた(P128)
 
 ・仏教では、自死を極端に排除する姿勢は希薄である
 特に「慈悲」の行為として、他社への愛が動機の場合には
 むしろ最も尊敬すべき価値と考えられる (P129)
 
⑤「終末期鎮静」から
・(安楽死をテーマとした、アンドレカイヤット監督の仏映画
 「裁きは終わりぬ」から)
「患者を愛する被告にとっては、モルフィネを与えること以上に
 何もできない医学が耐えられなかった」
 
・(森鴎外が「高瀬舟縁起」という小論で、自殺幇助及び安楽死
 の言及していることをふまえて)
 この鴎外の言葉からは、医療・医学の世界では、安楽死は、絶対に
 認められないものではない、むしろ自然な行為の一つとみなされ
 うる、という医学者に比較的ありがちな姿勢を見て取ることが
 できる。(P159)
  
⑥「生きるの値する命」から
・医療側か、患者の苦しみに「寄り添い」、「自らのもの」とは
 できないとしても苦しみを「共にする」ことから医療が出発
 すべき(P195)
   3.最後の感想

 読後感は

まず、避けてはいけない、あたりまでのことを提示され、身が引き

締まる思い、という感じでしょうが。

上記2の①②コメントにも書きましが、

データや一文引用については、私が従前から認識している点も

ありました。

しかしながら、全体通読して、村上さんの子供世代にあたる私

ですが、改めて重い現実を突きつけられて、再認識させられた

た感じです。

 本書は、80歳をすぎた村上さんが、深い教養と、現場目線双方を

もって書かれた、稀有な本かと思います。 

 


 

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

裁きは終わりぬ
価格:4752円(税込、送料無料) (2019/11/14時点)

楽天で購入
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

山椒大夫/高瀬舟改版 (新潮文庫) [ 森鴎外 ]
価格:539円(税込、送料無料) (2019/11/14時点)

楽天で購入

 

#000000; font-size: 12px; line-height: 1.4em; margin: 5px; word-wrap: break-word;"> 

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

あらためて教養とは (新潮文庫) [ 村上陽一郎 ]
価格:605円(税込、送料無料) (2019/12/17時点)

楽天で購入