敗者烈伝
著者 伊東潤/著
出版者 実業之日本社 2019.10
1.概要
敗者から学べることは、勝者から学べることよりも、はるかに多
い、と私も思います。
人は、いつか己が敗者になるかわからない不安におびえて生きて
行くしかなく、これから逃れるためにも、歴史から学ぶ必要ありで
しょう。
目次に沿って紹介し、著者のコメントを引用していきます。
なお、本書は、源頼朝、徳川家康ら、歴史の勝者を語る「勝者烈伝」
も併録しています。
2.古代・平安・源平
天賦の才に恵まれ、馬子の時代の権力を取り戻そうとした入鹿は、
将門の失敗は、相次ぐ勝利によって自信過剰に陥り、 敵を侮った
ことだろう。 P36
頼長は、己一個の力で道長の時代の栄光を取り戻せると思っていた。
真の敗因は自信過剰である。
過度の自負心がいかに恐ろしいものかを、教えてくれる。 P48
清盛の敗因を一言で言えば、「急ぎすぎた」「行きすぎた」
また、平家の公家化を図り、在地の武士たちの声に耳を傾けなかっ
たのも失敗だった。 P59
義経は多分に感情的な一面があり、頼朝の仕打ちに怒っては、 その
場その場で感情の赴くままの行動を取ってきた。
つまり多分に場当たり的で一貫性がないのだ。 P70
3.南北朝・室町
師直は既成の権力や権威を恐れることなく打破し、 室町幕府の基礎
を築いたが、主筋の直義を殺せず、 中途半端に妥協したことで墓穴
を掘った。
に敗れ去ったのだ。 P89
直義の敗因は、高氏の降伏条件を反故下にもかかわらず、 良好な関係
を取り戻せるとお思った点になる。
この点だけ見ても、 直義の人間洞察力は甘い。 P100
義政の人格的欠陥として、優柔不断すぎ、最も将軍に向いていない
器
「事なかれ主義」は、後世にまで波及するほどの大きな問題を生
じさせてしまった。 P112
「挫折なき成功の連続」こそ人生において最も恐ろしく、成功に
溺れることなく自己を保ち続けることがいかに難しいかを、道灌
の最後が教えてくれている。 P124
4.戦国・江戸
人の運命とは過酷だ。
義元ほどの名将でも「慢心」「油断」「焦り」によって、すべてを
失うことになってしまった。 P141
勝頼は勇猛果敢な侍大将だったが、優秀な戦国大名ではなかった。
つまり優秀な営業は、必ずしも優秀な経営者とはなり得ないのだ。
P152
かくして信長は志半ばにしてこの世を去った。その無念は察して余
りある。
だがそれが身から出た錆なのは、こうして信長の生涯を俯瞰してみ
ると解る。
人にとって最大の敵は己である。 P164
完璧な作戦で勝者となったにもかかわらず、その後も計画性がなき、
光秀は敗者に転落した。
そこには何か大きな謎が介在していたとしか思えない。 P177
氏政は慎重で石橋を叩いても渡らない性格が災いし、勝負どころを
見失い、最後に豊臣軍と戦わねばならなくなった。 P189
秀吉がその晩年、疑心暗鬼に囚われさえしなければ、秀次が豊臣
政権を安定に導いた可能性は高い。
しかし秀吉にとっても秀次にとっても、鶴松の誕生と死。
そして秀頼の誕生は、あまりにタイミングが悪かった P200
三成の場合、戦略決定&深慮遠謀パートを秀吉に委ねてきたことが
後々まで響き、自らがリーダーとして矢面に立たされたも、それが
補えなかった。 P213
家康と決着を付けておかなかったこと、秀次を自害に追い込んだ
こと、朝鮮出兵を断行したこと、この三点によって豊臣家の没落は
見えていた。 P224
事をなす時には周到な準備がいる。
他力本願ではうまくいかない。
情報の伝達手段を誤ると失敗の可能性が高まる。 P237
5.幕末・明治
慶喜は失敗を自責で考えることなく、反省や追悼の姿勢を示すこと
もせず、生涯を小才子のまま終わらせた。
人の上に立つものは頭がいいだけでは務まらないことを、慶喜は
我々に教えてくれる。 P255
容保は巨視的観点から物事を考えるような教育を受けてはおらず、 「徳川家追従」という方針以外取りようがない。
歴史の転換点に立つべき器量の持ち主ではなかった。 P267
知識だけで切り抜けられる受験と、知識プラス構想力(創造性)と
実行力が必要な経営では、適性が全く異なるからだ。 P278
榎本武揚
榎本の幸運は、その学識を惜しまれたことに尽きる。
知識や技術が、新国家建設に必要とされた。 P290
江藤は敗者となったが、彼の精神は受け継がれ、以後、 司法省の
権限は強化され、日本は真の近代国家となった。
やはり正義は勝ったのだ。 P302
日本史上、唯一無比のカリスマリーダーは、
独り歩きし始めた自らの虚像を担がれ、 それに引きづられるよう
にして命を絶たねばならなかった P314
「人斬り半次郎」のイメージは誤解
桐野は「日本の西郷隆盛」でなく「おいたちの西郷先生」として
おきたかったのだ。 P326
6.まとめ
著者より読者には日々の競争の勝利を願っている趣旨の記述があ
ります。
グローバリズムの世を罵倒はできても拒否はできないとは、その
とおり。
戦って勝ち抜いていくしかないのでしょう。
そのためには、敗者から学ばないと・・・。