ゴリラの森、言葉の海
著者 山極寿一/著
小川洋子/著
出版者 新潮社 2019.4
1.概要
ゴリラの眼を持つ霊長類学者・山極寿一さんとヒトの心の森に分け
入る小川洋子さんの対談です。
が、京都大学の研究室で、屋久島に自然の中で、現代に生きるヒト
の本性をめぐって、言葉のやり取りが続きます。
主題を十分調べ勉強し、咀嚼した小川さんの言葉を踏まえ、山極さん
は十分解りやすく解説するなか、「野生のゴリラを知ることは、ヒト
が何者か自らを知ること」、が浮かび上がってきます。
山極さんの対談は、実は昨年11月18日に、「人類の起源、宗教の誕
生」のなかで、宗教学者の小原克博さんとの対談を取り上げて
います。
「人類の起源、宗教の誕生」(読書感想文もどき) 「AIは人類に取って変らない」との見解 - 中高年michiのサバイバル日記
ここから、一つ引用しますと、
・食物を確かめるんじやなくて、仲間を信じてその食物をたべる。
信頼関係の変化がある(P17)
(自分しか信用しなかったら、食べ物も限られるわけで、この信頼
関係がリスクをグッと減らします)
小説家の小川洋子さんは
1962(昭和37)年、岡山県生れ。早稲田大学第一文学部卒。
1988年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。
1991(平成3)年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。
2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞を受賞。
等の経歴です。
個人的には、「猫を抱いて象と泳ぐ」の取材で、子供の学校を訪れ
たことを聞いています。
2.目次
はじめに (小川洋子)
Ⅰ.ゴリラとヒトが分かち合う物語
Ⅱ.ゴリラの背中で語り合う
Ⅲ.ゴリラとヒトの間で遊ぶ
Ⅳ.屋久島の原生林へ
終わりに (山極寿純一)
3.ピックアップ
(抜粋だけでなく、一部私の要約もあります。
また、( )内は前後補足や私のコメント)
二つの理由からゴリラは「人間の鏡」である
➀人間の模範であること
②人間の本当の姿を映し出すものであるということ P17
ゴリラに年子はいない。
4年に一度くらいしか子どもを生めない
3年くらいは授乳している P52
(ゴリラ比較で、人間の乳離れ、異様に早いようです。)
親子愛は性的なものを払拭したところにしない
生物学的な血縁関係はなくても、親子関係は作ることができる
逆に、生物的関係があっても、育てるという経験がないと、
性的な関心が生じてしまうこともあり得る。 P54
男の人は、子供を産むという経験をしないから、共同体が認め
今の日本男子が草食化しているというのは、儀式がないから。 P66
オスが男性になっていく過程で必要だった男らしさは、
今の人間社会でも必要なものだ。
違いの認識は話が別。 P68
人間が戦争をするのは、類人猿から引き継いだ本能ではない。
言葉のせいである。
狩猟に用いる武器を同じ人間に向けるようになったのは、せいぜい
数千年前だから人間の本性であるはずがない P77
戦争のような集団間の暴力が存在する理由は3つ
➀言葉(嘘をつける)
②死者を利用(現実とは違う利害関係で結ばれた集団を作り出す)
③共感性(共感能力を高めることで、まとまる力を身につける) P81~
人類の進化は
英雄伝説のように語られることが多いが、実は敗者。
そして、その弱みを強さに代えたのが、人類成功に原因。 P91
よく軽蔑的な意味で「動物のように」と言いますけど、それは誤解。
動物は理由なく攻撃的にはなりませんし、親子の区別なく交尾する
こともない。
動物のほうがよほど節度を持っている。
説明できないような大きな感情のうねりや、理不尽な行為を「動物
的な」と言いますね。
それは人間だからこそするんです。 P149
(人間の特徴として)
赤ちゃんは乳離れが早い、思春期に急成長、 老齢気が長い
(その理由として)
文化や文明の歴史ではなく、人間の生物としての独特な歴史が反映
されている。
体験することのなかった、
熱帯雨林の外の冷涼な気候や植生帯へ
と人間の祖先が進出する大きな社会力を熟成する源泉となった
P217
4.最後に感想
非常に読後感がいい、本でした。
最後に、私が気に入った小川さんの文章を「はじめに」から引用し
ます。
行ったこともない、手も届かない遠い場所にも、何ものかが懸命
に生きている。
この当たり前の現実が、新鮮であり驚きだった。
同時に、自分が生かされている世界に対し、畏怖に念を抱いた
瞬間でもあった。