知略の本質
戦史に学ぶ逆転と勝利
野中郁次郎/著 戸部良一/著
河野仁/著 麻田雅文/著
出版者 日本経済新聞出版社 2019.11
1.目次
序章 四度目の挑戦
第1章 独ソ戦
勝利を呼び込んだ戦略と戦術の変化
第2章 イギリス 1941~1943
守りから逆転へ
第3章 インドシナ戦争
ゲリラ戦と正規戦のダイナミックス
第4章 イラク戦争と対反乱(COIN)作戦
パラダイム・シフトと増派(サージ)戦略
終章 知略に向かって
2.概要
勝者に共通する知略とは、なんであろうか。
独ソ戦、英独戦、インドシナ戦争、イラク戦争をケースに、
圧倒的不利を打破する戦略と指導力を「知略の本質」として解明
しています。
「序章」に、目的意識の記載があり、概要の補足とします。
戦略の本質を洞察し理解するためには、それがもともと軍
事の分野で実践されてきたことに立ち戻る必要がある。
そして、その本質を十分に洞察・理解すれば、戦略の本来
の実践分野である軍事や安全保障でも、組織運営や企業経
営でも、スポーツやゲームでも、戦略を賢く実践すること
ができるようになるだろう。
本書はこのような問題意識から出発している。 P3
たとえば、軍事戦略をめぐっては、従来、攻撃と防御、機
動戦と消耗戦、直接アプローチと間接アプローチといった
ような二項対立的なとらえ方があるが、われわれは、そう
したとらえ方よりも「二項動態」的なとらえ方こそ、戦略
の本質を洞察していると理解している。
戦略現象を「二項動態」的に把握したうえで、情況と文脈
の変化に応じて具体的な戦略を実践していくことが重要な
のである。
そのような戦略を、本書では「知略(Wise Strategy)」と
呼ぶ。 P7
3.ピックアップ
第1章 独ソ戦 から
(何が勝敗を分けたか、について)
一つの答えは、補給である。 P79
愛国心だけでなく、
味方に処刑されかねないという恐怖心で
あった。 P80
耐え忍ぶ
作戦の変更
軍事の専門家である将軍たちへの権限委譲 P81
第2章 イギリス 1941~1943 から
イギリスの戦略は極めて単純明快であり、戦争に勝つため
には「新大陸がその全力を挙げて、
旧大陸の救援と解放に
立ち上がる」
ことすなわち
アメリカの参戦を引き出すことが
必須の条件であり、そのために戦争を継続することであった。
P176
あった。 P184
第3章 インドシナ戦争 から
遂行能力を破壊する、という戦術レベルの効率性追求の
っていた。
ホー・チミンには、いかなるコストを負ってでも、戦争を
遂行する
大義があり、
それを成し遂げる不屈の意思と実行
力があることを洞察できなかった。 P251
おける国内安定への支援経験をもつ
海兵隊の平定作戦との
二項対立が
止揚されないまま、「不名誉なる」
撤退に向
かっていったのである。 P254
政治目的を軍事的手段によって実現しようとする戦争目的
自体に、当初から難があった。
4.まとめ 「終章 知略に向かって 」
「知略」とは「知的機動力」で賢く戦う哲学であり、過去ー現在
ー未来の時間軸で、共通善のために、「何を保守し何を変革するか」
の動的バランスをとりつつ、つねに組織的な本質直感を共創しながら
行動し続ける戦い方を指す。
知的機動力とは、共通善に向かって実践知を俊敏かつダイナミック
に創造、共有、錬磨する能力である。 P373
(二項対立をうまく制御することが勝利のカギであること自体は、
実践知リーダーたちに共通する6の能力
共通善
現実直感
場づくり
物語り化
物語り実践
実践知組織化 P380
知略が機能するための4つの要件
共通善ー何のために戦うか
共感(相互主観生)
本質直感
自立分散系ー実践知の組織化 P385
(終章末尾の文章を引用します)
変化する現実で、組織内外の人々との相互作用を高次のレベルで止揚
させながら、戦略を定め、文脈や情況に応じて実行するプロセスに、
今こそ正面から向き合わなければならない。
いかなる環境変化にも能動的に対応する国家、組織であるためには、
リアルタイムで「物語り」を紡ぎ、実践するしぶとさが求められる
だろう。 P408
5. 最後に
タイトルに、「長い旅の締めくくり」と書いていいますが
「失敗の本質」→「戦略の本質」→「国家経営の本質」→「知略の本
質」と続く4部作のことです。
未読の方のために、「失敗の本質」も紹介します。
締めは著者の野中郁次郎の言葉(「おわりに」P416 から)
戦略を二項動態的にとらえ、「いま・ここ」の本質直視にもとづいて
プロットとスクリプトをつくり物語る実践的リーダーを、いかにして
早急に育成するかということこそ喫緊の課題である。