中高年michiのサバイバル日記

世の中のこと、身の回りのこと、本のこと、還暦の中高年がざっくばらんに書きつける日記

フランス革命についての省察(読書感想文もどき) バークの古典的名著「保守主義」の何たるかが、よく解ります。

 フランス革命についての省察 

原タイトル           Reflections on the Revolution in France

エドマンド・バーク/著  

中野好之/訳  

出版者    岩波書店 2000.7, 8

1.概要

フランス革命への批判がなされていて、保守主義聖典といわれてい

ます。

省察』は私的書簡という形式で書かれており、冒頭において「名誉

革命」の本質を明らかにしつつ、フランス革命擁護者への反論となり

ます。

権利章典を引きつつ名誉革命において、イギリスは世襲的王位継承を

選択したと主張しています。

残りの大部分はフランス革命への批判、そして革命が今後どのような

経過を辿るかの予測をしていますが、フランス革命の例えば数十年後

に、歴史家として十分な分析をして書いた、のではなく、まさに同時

代の現在進行形での分析です。

省察』には、バーク哲学の主要概念が述べられてて、

文明社会・法の支配・伝統・慣習・相続・世襲制度・偏見、教会など

の中間組織、私有財産権の擁護が主張されており、それらを破壊する

フランス革命への非難がなされています。

また理性主義・平等主義・民主主義などへの反駁もなされています。

2.ピックアップ

第1部から

貴下が得た利益なるものを数え上げてみよ。(中略)

フランスはこの間違った明光を追求することで、これまで文句なしの

純粋な至福を購入してきたどんな国民よりも高い代償で、このみっと

もない惨害を買い込んだ。

フランスは、犯罪によって貧困を買い入れた。

フランスは、自己の利益のためにその徳性を犠牲にしたのではない。

フランスは、自らの美徳を冒涜する魂胆で、自己の利益を放棄しただ

けに過ぎない。  (P72)

 

過去の革命を成就した人々は、国会社会の変革の企画もしくは実現に

際して、彼らがその平穏を擾乱した国民の威信を高めることで、自己

の野心を神聖化してきた。

彼らは、偉大な視野を持っていて、自分の国土の破壊ではなく統治を

目指した。

彼らは、内政と軍事との偉大な才幹の持ち主であって、その時代の

恐怖の的にして同時にその光輝であった。  (P90)

 

敢えて言うならば、水平化を試みる人間は決して平等を生み出さな

い。

市民の多様な階層から成り立つ社会では、必ずや一部の人々が高い地

位を占めるはずであり、従って、水平化する人間は事物の自然的秩序

を改変し歪曲するだけである。

彼らは、構造上の安定のためには地上に置くよう要請される要素を空

中高く据えることで、社会と言う構造物に負担を強いる。 (P92)

 

彼らは何かを必ず破壊せねばならず、さもないと自分の生きがいを実

感できない。

一部の徒輩は教会権力を通じて世俗権力を、他の一翼は世俗権力を通

じて教会権力の破壊を企てる。  (P107)

 

私は、抵抗や革命についての不断の話題を、つまり憲法の危急の際の

薬剤を日常の糧に変える手口を好まなかった。

それは必然的に、社会の体質そのものを危険なまでに虚弱にする。

 (P117)

 

彼(ルイ16世)がパリやプライス博士の残忍で侮辱的な凱旋にふさわ

しかったと考えることに、この上ない困難を感ずる。

私は、自由の名分のためになされたこの種の国王への見せしめに戦慄

する。

私は、人間性大義にもとづいて、この種の最も奸悪な徒輩の暴虐が

罰せられないことに戦慄する。  (P151)

 

彼らにとっては、事物の古い枠組みは、それが古いというだけで破壊

の充全な動機となる。 

新しい枠組についていえば、彼他派、慌てて建造される建築物の耐久

性には何ら不安を感じなくて済む。

何しろ、自分たち以前の時代に達成された事業にはほとんど何の関心

もなく、万事を発見への希望に繋ぐ彼らには、耐久性など最初から眼

中にない。(P161)

 

我々は、このような観念にもとづいて、一部の徒輩にように、既成制

度への敵対を自らの宗教と哲学へと仕立てて、これと事を構えるのと

は正反対に、あくまでこれに固執する。

我々は既成の教会、既成の君主制、既成の貴族制度、既成の民主制を

ば、今それらが現にある姿で、つまりそれ以上でも以下でもない形で

護持する決意を固めている。 (P168)

 

私有財産にこれほどまで恐るべき革命を生み出した野蛮な征服者は、

過去にほとんど存在しない。

ローマの派閥の頭目たちが彼らの掠奪品の競売で「アノ惨酷ナ槍ヲ」

立てた時でさえ、かほどまでに膨大な量の被害服民の資材を彼らの競売

には、掛けなかった。  (P209)

 

第2部から

彼らの計画には経験上それらの有益な傾向を裏付けるいかなる要素も

存在しないゆえに、私はあえて場当たり的という。( 下巻 P61)

 

古い体制の有用な部分が保存され、新しく付加された部分が既存の

部分へ適合される時にこそ、強靭な精神力、着実で忍耐強い注意力、

比較し結合する多面的な能力、そして便法をも豊かに考え出す姿勢の

秘策が発動されるべきである。  ( 下巻 P65)

 

全編への結語から

私は確かに一部の人々に偉大な自由を見出すものの、圧倒的とは言わ

ぬまでも多くの人々の中には、逆に抑圧的で見苦しい奴隷根性を見

る。

だが、叡知と美徳を抜きにした自由とは何か?

それは、考えられるあらゆる悪の中で最大のものである。

 (下巻 P196)

 

私は変更を必ずしも排除しない。

だが、変更を加える場合にも、それは保存のために行われるべきであ

る。

私は非常な苦痛に接して初めて、私の救治策を講ずるだろうが、それ

を実際に行う場合にも、私はわが祖先の手本に見習いたい。

(下巻 P199)

  3.他者の分析引用

「革命批判」と、「リーダー論」に気に入った分析があったので引用します。

フランス革命の省察とは (フランスカクメイノセイサツとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

 (1)フランス革命への批判

バークは、フランス革命は「人間の権利」という抽象的原理に基づく

革命であり、それは先入観と社会的紐帯の中でのみ自由が可能になる

という人間的現実を無視し、実際には人間を「野生の自然状態」に戻

してしまうものに他ならないと言う。

それは教会をも含めて社会的紐帯を全て破壊し、人間の社会的まとま

りの手がかりとなるものを次々と破壊してしまった。

貴族制的要素は政治的平等の教義によって無視され、いい加減な人間

たちが権力を独り占めする状態を招いた。

 (2)リーダー論

バークは、「自由な国制」が無作為で安定的に存続するとは考えない。

リーダーはその存続のために一定の作為や活動をしなければならない

と説く。

政治エリートのこうした能力をバークは思慮(prudence)や実践的

知恵(practical wisdom)、正しい理性と呼んでいる。

これに対してフランス革命は哲学的な革命であり、形而上学者や哲学

者によって行われた「思弁」に基づく革命であるというのが、バーク

の説である。

  4.最後に

これだけの古典となると、幾多の先人が分析し、論じており、おそ

らく、相当部分は的を射た解説なのでしょう。

とはいえ、別に試験勉強をしている訳ではないので、自分の理解度の

自信の無さは、横において、自力で読みすすめてみようという、冒険

でした。

 

なお、下記紹介は「中野好之訳(岩波)」ではなく,「新訳佐藤健志訳(PHP

新書)」としました。