21世紀の啓蒙
理性、科学、ヒューマニズム、進歩
橘明美/訳 坂田雪子/訳
出版者 草思社 2019.12
1.概要
知の巨人ピンカーが綴る、事実に基づく希望の書。
人々の知能、生活の質、幸福感、平和…。
多くの領域が啓蒙の理念と実践により改善されてきたことをデータを
用いて明らかにし、無根拠な「衰退の予言」の欠陥を指摘しています。
「暴力の人類史」もそうですが、
暴力の人類史(読書感想文もどき) なるほど暴力は減少している、まず知ることが大事 - 中高年michiのサバイバル日記
結論は割と単純。
データを用いて、一つ一つありがちな誤認を解いていきます。
思うに、昨今の新型コロナ感染症報道もそう。
とかく悲観的にセンセーショナルに報道すると、視聴者の関心を引き
ます。
意地悪に言うと、そこには報道の公平性・倫理性をあまり感じません。
しかしこれは、「データをもとに、自分の頭でしっかり考える」こと
への、良い反面教師みたいなモノですね。
実は、2020年6月14日に下巻中心のものをアップしています。
2.ピックアップ
緻密で一つ一つ膨大なデータと、論理に戻付き、解明していきますので、
網羅的にすると、それこそ膨大になります。
はじめにお断りは、私が、特に気に入った部分の抜粋となります。
今回は上巻に限定した、引用とします。
②指導者の交代
③冷戦の終結
(以上3つは毛沢東に死が象徴している)
④グローバル化(なかでも国際貿易の拡大)
⑤科学と技術
(この⑤が多くの分析から最大要因とされる) P174-182
第9章 不平等は本当の問題ではない
歴史的には社会的支出は増えつつあり、この傾向の次のステップは
ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI。あるいはそれに近い
負の所得税)になるのかもしれない。
この考えは何十年も議論されてきたが、いずれ実現するのではない
だろうか。
社会主義の香りがするにもかかわらず、これまでUBIを支持してきた
のは政治的に右寄りの経済学者、や政治家や州であり、また現在は
左右を問わずあらゆる立場のアナリストたちがこれをもてあそんで
いる。 P224
不平等は貧困とは別のもので、人類の繁栄を左右する基本的要素で
はない。
各国の幸福を比較してみれば、富の総量の方が格差問題より重要だ
とすぐ解る。(中略)
所得格差を最も効率よく縮めるのは、疫病、大戦争、破壊的革命、
そして国家崩壊なのだから。 (中略)
つまりいくつかの点では世界は不平等になったが、より多くの点で
世界の人々の暮らしは良くなったのだ。 P226
第11章 世界はさらに平和になった
第一次世界大戦だけでなく、さらに惨禍を極めた第二次世界大戦をへて、
ようやく戦争からロマンティックな要素は排除された。
そして「平和」が西洋諸国のみならず国際社会全体の」目的として表明
されることになった。
それまでもてはやされていた物の価値が下がる一方で、人命の価値は上
がった。 P308
第13章 テロリズムへの過剰反応
テロは小規模な暴力なので、戦略目的を達成できる力をもたない。
そのため、局地的に恐怖と苦痛をもたらすことはあっても、長期的
にみれば、徐々に治まりつつある。(中略)
21世紀のISISも将来的にはほぼ確実に消滅するだろう。
テロによる死者数をゼロにすることはできないだろうが、覚えてお
きたいのは、テロに恐怖を覚えることは、社会がどれほど危険に
なったかを示すのではないということだ。
それはむしろ社会がどれほど安全になったかを示している。 P368
(保守化への反論として)
実際にはグラフにあるように、各世代の価値観は以前より自由になった
時代精神を反映し、よりリベラルになったことが示されている。
つまり若者は年をとっても「開放的な価値観」を持ち続けるというこ
とだ。 P416