シネマでなく、「大衆」をイメージしたかったのです。
オルテガ『大衆の反逆』 多数という「驕り」
シリーズ名 NHKテキスト 100分de名著
著者 中島岳志/著
日本放送協会/編集 NHK出版/編集
1.概要
「大衆の反逆」は、
スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセット(1883 - 1955)が著した、
大衆社会論の嚆矢となる名著です。
今回原著でなく、 100分de名著シリーズで、中島岳志さんの案内
です。
https://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/84_ortega/index.html
社会のいたるところに充満しつつある大衆。
彼らは「他人と同じことを苦痛に思うどころか快感に感じる」人々
でした。
急激な産業化や大量消費社会の波に洗われ、人々は自らのコミュニ
ティや足場となる場所を見失ってしまいます。
その結果、もっぱら自分の利害や好み、欲望だけをめぐって思考・
行動をし始めます。
自分の行動になんら責任を負わず、自らの欲望や権利のみを主張
することを特徴とする「大衆」の誕生です。
2.要約と抜粋(4回に分けて)
第1回 大衆の時代
(要約)
コミュニティや足場となる場所を見失い、根無し草のように浮遊を
続ける。
他者の動向のみに細心の注意を払わずにはいられない大衆は、世界
の複雑さや困難さに耐えられず、「みんなと違う人、みんなと同じ
ように考えない人は、排除される危険性にさらされ」、差異や秀抜
さは同質化の波に飲み込まれていく。
(以下抜粋)
虚栄心で「盲目」になっているときですら、高貴な人間は、本当に
自分が完全だと感ずることができないのだ。 P28
愚か者は、自分のことを疑ってみない。
自分がきわめて分別があるように思う。
ばかが自分の愚かさのなかであぐらをかくあの羨むべき平静さは、
ここから生まれる。 P28
科学者が、しだいに科学の他の部門との
接触を失い、
ヨーロッパ
の科学、文化、文明という名に値する宇宙の総合的解釈から離れ
てきた点が、重大なのである。 P31
(「専門家」に対する評価)
かれは無知な知者であるとでもいうべきであろうが、事は重大
である。 P34
第2回 リベラルであること
(要約)多数派が少数派を認め、その声に注意深く耳を傾ける
こと。
「敵とともに共存する決意」にこそリベラリズムの本質があり、
その意志こそが歴史を背負った人間の美しさだというのだ。
(以下抜粋)
反対者の存在する国がしだいに減りつつあるという事実ほど、
今日の横顔をはっきりと示しているものはない。
ほとんどすべての国で、一つの同質の大衆が公権を牛耳り、
反対党を押しつぶし、絶滅させている。 P44
思想とは、真理にたいする王手である。
思想をもとうとする者は、そのまえに、真理を欲し、真理
を追求する遊戯の規則を認める用意がなくてはならない。
P47
恐るべき問題とは、社会の主導権が文明の諸原理に全然関心
のないタイプの人間に握られたということだ。 P53
政治的に共存への意志がもっとも高く表現される形式は、自由
民主主義である。
それは、隣人を考慮に入れる決意を極限にまで押し進めたものであ
り、「間接行動」の原理である。 P58
支配するとは権力を奪取する行為ではなく、それを静かに行使する
ことである。 P62
第3回 死者の民主主義
(要約)オルテガによれば民主主義の劣化は「すべての過去よりも
現在が優れているといううぬぼれ」から始まる。
数知れぬ無名の死者たちが時に命を懸けて獲得し守ってきた諸権利。
死者たちの試行錯誤と経験知こそが、今を生きる国民を支え縛っ
ているのだ。
いわば民主主義は死者たちとの協同作業によってこそ再生される
という。
(以下抜粋)
進歩した文明とは、困難な問題をかかえた文明にほかならない。
(中略)
問題が複雑になると、それを解決する手段もまた精密になってく
ることは、当然である。
(中略)
この手段の中にはーー少し具体的にいうとーー文明の進歩に
そのまま結びついた一つの手段がある。
それは、その背後にたくさんの過去を、たくさんの経験を持
つことである。
つまりその手段とは、歴史を知ることである。 P81
伝統的な印象が、「生きるとは、制約されていると感ずること
であり、それゆえに、われわれを制限するものを考慮に入れ
ねばならぬということだ」といったとすれば、もっと新しい声
は、「生きるとは、なんらの制限にぶつからないことだ」と
叫ぶ。 P87
第4回 「保守」とは何か
(要約)人間は知的にも倫理的にも不完全で、過ちや誤謬を免れ
ることはできないのだ。
こうした人間の不完全性を強調し、個人の理性を超えた伝統や
良識の中に座標軸を求めるのが「保守思想」だが、オルテガは
その源流につながる。
歴史の中の様々な英知に耳を傾けながら「永遠の微調整」を
すすめる彼らの思想は、急進的な改革ばかりが声高に叫ばれ
る現代にあって、大きなカウンターになりうる。
(以下抜粋)
オルティガは、
大衆社会を強く批判しながらも、
マスメディア
に登場し、大衆を相手にさまざまなことを書き続けた。
大衆の中に、まだ庶民の英知が生きていると信じ、そこに向か
って言葉を発し続けた。
これが、私がオルティガを好きな理由の一つでもあるのです。
P102
3.最後に感想
今回は、「大衆の反逆」の原点にあたっていません。
生きているうちに、リベンジを・・・と思っています。
タイトルにも書きましたが、我々はいつにおいても知的倫理
的に不完全であり、「うぬぼれ」を排除して謙虚に、また
「寛容」であり続けるにも謙虚さが必要かと思います。
いろんなケースを踏まえ「賢い先人、考えている先人」と
真摯に対峙していると、おのずと謙虚になれそうな、気が
しています。