中高年michiのサバイバル日記

世の中のこと、身の回りのこと、本のこと、還暦の中高年がざっくばらんに書きつける日記

残酷な進化論(読書感想文もどき)「死」が生物を生み出した以上、生物は「死」 と縁を切ることはできない

残酷な進化論

なぜ私たちは「不完全」なのか

更科功/著  

出版者    NHK出版 2019.10

1.概要

人体は「進化の失敗作」? ヒトも大腸菌も生きる目的は一緒?

心臓病・腰痛・難産になるようヒトは進化した?

進化とわれわれの利害関係が一致しないことは、多々あります。

「人体」をテーマに、誤解されがちな進化論の本質を明快に描

き出した、知的な読み物です。

著者の「温かみ」を感じた文章でした。

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進化をどうとらえるかるかは、難しい問題

2.ピックアップ

(前向きに生きられない場合、様ざまな事情で自由に生きられ

ない場合)

生物は生きるために生きているのだから、私たちだって、ただ

生きているだけで立派なものだ。何もできなくたって、恥じる

ことではない。そんな生物はたくさんいる。  P21

 

私たちと進化の利害関係は、しばしば一致しない。ときには進

化は私たちの敵になる。もしそうなら、私たちも進化の言いな

りになっている必要はないだろう。医学や健康な生活習慣は、

進化と闘うための武器なのである。  P39 

 

(呼吸器は恐竜の方がヒトにより優れていた可能性にふれ)
私たちヒトは現在の地球上で大繁栄しているので、つい自分

たち人類の方が、ほかの生物よりもすべてにおいて優れてい

ると思いがちである。かつては、恐竜なんて体が大きいだけ

で、アホな生物だと思われていたふしもある。でも、そうい

う態度は恐竜に失礼だろう。  P56

 

 ダーウィンが進化は進歩でないとはっきり言ってから、もう

160年以上が経っている。それなのに、「存在の偉大な連鎖」

は、人々の心の中に未だ住み続けている。それは人類だけを

特権階級のようにみなすテーマの本が現在もたくさん出版さ

れていることからも明らかであろう。  P71 

 

安定化選択が働いているときは進化しないが、方向性選択

が働いているときの進化は結構速い。おそらく数千年もあ

れば十分だろう。  P95

 

実際には、進化に完成も未完成もないのである。環境が変

わればいくら「完全」に思えたものでも、役に立たなくなる。

すべての生物は「不完全」であり、だからこそ進化が起きる

のだ。 P115

 

脊椎が5億年以上にわたって変化しなかった理由は、その役割

が重要だったからではなく、脊椎がつくられる時期に多面発現

遺伝子が多いという発生上の制約のためかもしれない。

もしそうであれば、この先も脊椎は、私たちの体の中に、存在

し続けるだろう。  P135

 

直立二足歩行をする生物は、人類しかいない。しかし、直立

しなくてもよければ、二足歩行をするサルや類人猿はたくさん

いる。樹上を二足歩行をするサルや類人猿もたくさんいる。

約700万年前にそのなかの一種が二足歩行を始めた。もしかし

たら、それは私たちでなくてもよかったのかもしれない。

他のサルや類人猿でもよかったのかもしれない。進化では偶然

も大きな役割を果たしているのである。 P162

 

生存競争というのは、「天寿を全うせずに死ぬ生物がいる」こ

とだ。先ほど述べたように「天寿を全うせずに死ぬ個体がいな

い生物」はいない。そういう生物は絶滅するか、無限に増える

かの、どちらかだからだ。  P184

 

ニホンザルとヒトの出産の相違点から)

そのためヒトでは、他の誰かに赤ちゃんを手渡されて、初め

て抱くことができる。

このような赤ちゃんの生まれ方は、文化的な違いを越えた

生物学的な、つまり、ヒトに一般的なものと考えられる。

そのため、社会的出産は何十万年も前から行われていた

可能性があるのだ。   P199

 

(ヒトの赤ちゃんはとても無力で)生まれたあともかなり

の長期間にわたって、誰かに世話をしてもらわなければ

ならない。

しかも、ヒトは」短い出産間隔で子を産むことができる

ので、無力な赤ちゃんが一人ではなく何人もできてしまう。

だから、とても母親だけでは、世話をすることができない。

 P200

 

シンギュラリティは「技術特異点」と訳されることが多い

が、「今までと同じルールが使えなくなる時点のことだ」

 P210 

 

死ななくては、自然淘汰が働かない。そして、自然淘汰

働かなければ生物は生まれない。つまり、死ななければ生

物は、生まれなかったのだ。

死ななければ、生物は、40億年間も」いきつづけることは

できなかったのだ。「死」が生物を生み出した以上、生物は

「死」と縁を切ることはできないだろう。

そういうい意味では、進化とは残酷なものかもしれない。  P212

 

 3.少し考えたこと

 勝手解釈かもしれませんが、内容を大方理解できて、

新しい視点がまた一つ増えた読後感。

まさに、私なりの「読書が意味を持つ時間」でした。

どうも狭い狭い、私の日常の思考範囲を広げてくれる

効果あり、です。たとえば、

ヒトの出産とニホンザルやゴリラの出産との違いは、

知ってはいましたが、「社会的出産」と結びつける詳細

解説は、とても面白かった、です。