中高年michiのサバイバル日記

世の中のこと、身の回りのこと、本のこと、還暦の中高年がざっくばらんに書きつける日記

世界がわかる宗教社会学入門(読書感想文もどき) まず基本的なことを網羅的に知ること

世界がわかる宗教社会学入門

著者       橋爪大三郎/〔著〕  

出版者    筑摩書房 2001.6

1.概要

この本は、東京工業大学学部2年生向け「宗教社会学」講義に基づく

そうです。

「それだから」というわけではないですが、どれれもわかりやすい

記述です

人の行動・考え方の多くは宗教に根差しているのだから、世界各国

を理解するための最低限の知識を盛り込んだ宗教社会学の“教科書”と

なっています。

講義形式の10章たて、基礎分野が網羅的に分かります。

1. 宗教社会学とはなにか

2. ユダヤ教とはなにか  契約と律法

3. キリスト教とはなにか  福音と愛の思想

4. 宗教改革とはなにか  ルターとカルヴァン 

5. イスラム教とはなにか ウンマイスラム法 

6. 初期仏教とはなにか  サンガの思想

7. 大乗仏教とはなにか  菩薩・般若・極楽浄土

8. 中国と日本の仏教  仏教の伝播と変容

9. 儒教とはなにか  孔子の思想・朱子学

10. 尊王攘夷とはなにか  山崎闇斎学派と水戸学

再び宗教を考える

 

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神の姿を描かない宗教イメージ



 2.本文からの引用

学生の講義メモや勉強ノートではありません。

著作の骨格を着刺したものでなく、私が事前にあまり知らなくて個別

に「なるほど」と感じたことを、ピックアップしていきます。

悪しからず・・・

 

日本社会はなぜ宗教を拒否するのか、この社会の構造はなぜ宗教に

よって与えられないのかを、他の民族、他の社会と比較するなか

から解明することにほかなりません。日本人が自分たちの社会を自己

理解する、それが、宗教社会学を学ぶ本当の目的です。 P23

 

民衆の間から出てきて権力者に反対する知識人などは、たいていすぐ

殺されてしまうので、社会的に影響を持たないことが多い。ところが

ユダヤ教の場合には、神こそ本当の支配者であるという考え方がある

ので、神の声を聞く預言」を、簡単に殺すことはできない。むしろ、

預言者が王様を批判する。このダイナミズムが、一神教の特徴です。

権力と知識が分離しています。これは近代合理主義にも通じますが、

それが可能になるのが、一神教預言者のシステムなのです。 P41

 

キリスト教にあって、ユダヤ教にない考え方 2つ

1.契約の更改

   キリスト教は、紀元後は、イエス=キリストへの信仰を契約とす

   る時期

   絶対王政をくつがえした近代市民革命も、資本主義社会を打倒す

   る共産主義の革命も、契約の更改から派生した考え方 

2.個人救済の考え方

   ユダヤ教は原則として、救済御単位はユダヤ民族

   人間は自己努力では救われず、神に愛を信仰する「マナイタの上

   の鯉」状態に自分を投げ出すのが、キリスト教徒の在り方 P71-74

 

宗教改革が、プロテスタントを生みました。宗教改革がなければ、アメリ

という国家も、近代社会も生まれなかったでしょう。そして大事なことは、

宗教改革キリスト教、それも西方教会(ローマ教会)に特有な現象である

ということです。  P78

 

ムスリムの構成する人類大の社会が、ウンマイスラム共同体)です。

すなわち、ウンマとは唯一神アッラーを究極の主権者、その使徒預言者

ムハンマドを地上における代理人と認めるムスリムたちの組織する、宗教

共同体です。

ウンマは世界に一つしかありません。  P110

 

日本人は、復活や輪廻を信じてもいないし、現世中心主義に徹するほど

合理的でもないので、なんとなく死後の世界があるような気がしている。

(中略)宗教を信じる世界の人々が、日本人と同じような感覚(死生観)

を持っているだろうと勝手に思い込むのだけはやめましょう。P122

 

仏教は輪廻を前提にしており、輪廻を信じなければ仏教は理解できない

のですが、日本人は信じていません。輪廻を信じるなら、祖先崇拝はあり

えません。仏壇に"先祖の位牌を祀る”のは、仏教でなく道教のやり方です。

P124

 

中国人は、プライドの高い民族で、あまり他国の文明を受け入れることが

ありませんが、(仏教については)インド人の哲学的・抽象的思考能力は

真似のできない優れたものだったので、中国人の受け入れるところとなり

ました。反対に中国からインドに伝わったものが特にないのは歴史の皮肉

です。  P168

 

仏教は哲学であり、思想であり、薬学や建築や美術、天文そのほかの実用

知識だけれども、要するにそれだけと割り切って、現実政治はいままでど

おり儒教で行うこととにします。  P172

 

宗族は、父系血縁集団です。日本にはないので理解しにくいですが、祖先

崇拝を行う数百~数万人規模の集団と考えてください。中国では血縁関係

が強力です。強力過ぎて、それと官僚機構を絶縁するため、科挙や宦官が

導入されました。そのどちらも日本に入りませんでしたが、それは日本に

宗族がないからです。  P198

 

日本では儒教が、実質的な主教に転嫁することが可能になってくる。これが

天皇制と言われるものです。将軍の、さらにその上の主君が天皇だから、

将軍に反乱するという政治的運動を、儒教の名のもとに、行うことができた

のです。 P233

 

ゾロアスター教イスラム教、キリスト教、いずれも火葬を好まない。

前者は火を神聖視するため、後者二者は、最後の審判の観念の関係から。

P239

 

3.最後に

著者の「日本の学生は、宗教についての知識があまりにも不足している。

このまま卒業して外国での生活がとても心配」との見解には同感です。

これは、今の学生だけでなく、私を含む、いわいる戦後教育の時代は、

ずーっとそうであったような気がします。

まかりなりにも、日本が今までなんとかやれているのは、宗教問題に

関して個々人が壁にぶつかったときの泥縄式または付け焼刃式の猛勉強、

苦悩のたまものでしょう

とはいえ、若いうちに網羅的体系的に学ぶ訓練をするのは、とても良い

ことかと思います。