中高年michiのサバイバル日記

世の中のこと、身の回りのこと、本のこと、還暦の中高年がざっくばらんに書きつける日記

文明の海洋史観(読書感想文もどき) マルクス史観や生態史観の「視点抜け落ち」は理解できました。

文明の海洋史観

川勝平太/著  

出版者    中央公論新社 2016.11

1. 概要

近代はアジアの海から誕生した、という説。

農業社会から工業社会への移行という「陸地史観」の常識に挑戦し、

海洋アジアを近代の発生源とする「海洋史観」を提唱します。

マルクス史観・ダーウィニズムの説明と問題点、棲み分け理論・生体

史観の説明と問題点が、解り易く整理されていました。

これを踏まえ、太平洋文明の時代に日本の進むべき道を提示して

います。 

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(海洋史観をイメージしたかったのですが、航路になりました。)

 2.本文からの引用

西洋人が危険をも顧みず、なぜ、あの一定時期に何かに憑かれ

でもしたかのように、香辛料を探し回ったのか。その理由のなか

には、むろん食料の保存剤、薬味として珍重されるという事情は

あったわけだが、身分の上下を問わず無差別に人々を死に導いた

疫病のはびこった時期に医薬品として用いられたという事実を知

れば、納得できるであろう。  P49

 

世界を限りなく開かれたもの、征服さるべき対象ととらえ、フロンテ

ィア開拓(自然破壊)を善とし、優勝劣敗、弱肉強食、ダーウィン

自然淘汰・適者生存に不応言を見出した「近代世界システム」の世

界観に対して、世界を地球という限られた全体性のなかでとらえ、

生物同士の闘争よりも共存共栄、すなわち今西錦司のいわゆる「棲み

分け」原理に表現を見出した自然観ーーそれは諸民族の「住み分け」

という世界顯と通じているーーには学ぶべきものがある。

今西進化論ないし、今西自然学の根底にある「全体のなかでの調和」

という理念は、深まる国際交流のなかで諸外国と運命を共有しつつ

ある日本には欠かせないであろう。   P54

 

 廣松渉 「人類史をその起源から現在まで統一的に把握しようという

志向において・・・・・マルクス学派と今西学派とは双璧である。」

 P98

 

(今西の)独創性は、自然の中で生きている生物が「生物全体社会」

という全体構造のなかで、生活形を同じくする個体が種社会を作って

いくことを発見し、種社会の関係を「棲み分け」と捉え、それにもと

づいて生物社会論並びに進化論を提示して見せたところにある。

 (中略)

現実にはその数の多さが示しているように、強い種だけが残っている

のではない。生物は同じ一つのものから分かれて、強弱大小、古い種

から新しい種にいたるまで多様な種が生物界に共存している。生物の

歴史は一つのものへ収斂するのとは逆方向、多様化への運動であり、

済み分けの密度の高度化である。  P116

 

 (三木清の「哲学入門」から)

現実は我々に対してあるというよりも、その中に我々があるのであ

る。我々はそこに生まれ、そこで働き、そこで考え、そこに死ぬる、

そこが現実である。  P141

 

唯物史観に立つ歴史家は、社会主義社会を建設する労働者階級がいか

に形成されてくるかに関心を寄せた。それは農民が土地を奪われて無

産労働者階級になる過程なので、関心の中心にあるのは陸地の出来事

である。

一方、生態史観では、乾燥地帯と湿潤地帯という風土の違いの着目す

るから、これもれっきとした陸地中心の見方である。そこには海への

視点、海からの視点がすっぽり抜け落ちている。

海への視点を取り込むことは、決定的に重要である。 P236

  

英国紳士の生活スタイルの基盤はカントリー・サイド(郊外)であ

り、都市で働いた後、郊外に移り住み、悠々自適の生活を送る。

都市生活は近代生活の終着点ではなく、通過点なのだ。岩倉一行はこ

れを見落とした。 P245

  

3.私が少し考えたこと

無論、私の読解力に起因するのだが、いまいち、読後のもやもや

感が抜けません。

 マルクス段階史観への疑問符や、今西錦司の「棲み分け論」・梅棹忠

夫の「文明の生態史観」の論点、その双方とも「海」の観点が落ちて

いるのも理解できます。

また、海での隔たりが情報を遮断するわけではなく、人的・物的交流

を妨げてはいないということは分かります。

しかし、文明発祥とその高度の発展の要因が海の道からの物産流入

にあったという主張は、いまいち、私のなかで、繋がらない。

海洋アジアを近代の発生源とする「海洋史観」がいまいちしっくりき

ません。

論点が違うものの、依然読んだ高坂正高氏の「海洋国家日本の構想」

が、私の脳裏にあったので、一層混乱したのかもしれません。  

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