シルクロード世界史
シリーズ名 講談社選書メチエ 733
森安孝夫/著
出版者 講談社 2020.9
1.概要
ソグド、ウイグル、マニ教が交錯する 中央ユーラシアから見た世界史
の素描を試みた書です。大草原に展開した2千年におよぶ激動と、人類史の
潮流を、行きかう宗教と言語に着目しています。著者の「理科系的歴史学」
の解明手法が、ち密です。
個々の証拠に丹念に当たる「学者のまじめさ」は、私にはできません。
2.本文からの引用
(1)序章の「世界史を学ぶ理由」に、私がなるほどと再確認したり、
「自分の考えに近い」と感じる部分が多々ありました。
「書評」構成からは変ですが「もどき」を言い訳として、私のお気
に入りをいくつか引用します。
権力の本質は暴力である。暴力というと聞こえは悪いが、人間集団の
場合はそれを軍事力・警察力と言い換えれば、納得がいくであろう。
現代でこそ男女平等が叫ばれるが、歴史は長らく男のものであった。
なぜなら、一般的にみて腕力では男が女より強く、棍棒・刀剣・槍・
弓矢が武器であった時代には、男が遥かに有利であり、したがって
長らく権力を維持してきたからである。 P16
近代の鉄砲・大砲の時代になると、単準な腕力は、必ずしも必要で
なくなる。皮肉な見方をすれば、近代欧米社会で女性の人権が伸張
したのは、腕力の弱い女性でもライフル銃やピルトルで屈強な男を
観単位倒せるようになったからなのかもしれない。
(中略)「銃は平等をもたらす装置」とは、相手が屈強でも銃を
持てば対等になれるという西部開拓時代由来する表現らしいが、
真に示唆的な言葉である。 P20
理科系的歴史学・文化系的歴史学が学問としての歴史学を構成し、
文化系的歴史学・歴史小説が教養のはんちゅうにいる。そこで私は、
プロの歴史学者の使命とは、理科系的歴史学に7から8割、文化系
的歴史学に2から3割の注力をすることであると考えている。すな
わち、あくまで理科系的歴史学を基礎にしつつも、ストーリー性
のある歴史を構築することである。 P25
歴史学に未来を予測する能力はないが、国家や企業の政策や方針に
とっても、個人の人選設計にとっても「ガイド」にはなり得る。
事実認識なくして、新しい判断は生まれない。 P30
人の移動こそが文化交流や新しい文化の勃興を促進する。前近代
社会あって、人の移動を容易にしたのは商業と宗教活動である。
しかも往々にして両社は密接に結びついていた。その結果、宗教
経典のみならず世俗的な手紙文や契約文書の中に、異民族間の文
化交流の跡が刻印されることにもなった。 P174
東洋全体世界の地図が知られていたと聞けば、だれしも少なからず
驚くに違いない。しかも地図中の国名が幹事とチベット文字の両方で
書かれていたと知れば、その驚きは倍加しよう。 P184
3.少し考えたこと
結構長い「序章 歴史を学ぶ理由」は、面白かったです。
自分の知っていることと、知らないことが程よく散らばり、自分
の見解に割と近い、考え方がが展開されていると、「読みやすい」
と思う,典型事例です。
事例を挙げると、