中高年michiのサバイバル日記

世の中のこと、身の回りのこと、本のこと、還暦の中高年がざっくばらんに書きつける日記

どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか? 中島さんの力強いメッセージ

 どうせ死んでしまうのに、なぜいま

死んではいけないのか?

中島義道/〔著〕

出版者    角川書店 2008.11

1.概要

一般的は本書の説明は、下記の通り

 所詮人生は、理不尽で虚しい。いかなる人生を営もうと、その後には

「死」が待っている。「どうせ死んでしまう」という絶対的な虚無を

前にしながら、なぜ私たちは自ら死んではならないのか?生きることの

虚しさを徹底的に見つめ、それをバネにたくましく豊かに生きる道を

指南する、刮目の人生論、とあります。

 まさに、これで正しいと思います。

実は、私が中島義道氏を読むのは、初めて。

1946年生まれで、83年ウイーン大学哲学科終了。哲学博士。

 電気通信大学教授。専攻は時間論、自我論、コミュニケーション論。

著作も多数あるようです。

なんとか、生活費は、稼げた人なんですね。

 

2.本文から

 いつもにもまして、明るくないし、一般的な興味も引かない引用かも

しれません。私同様、筆者に共鳴して、引用部分に頷く人が、一人で

もいればいいと思っています。

その共鳴とて、私の経済的損得には全く無関係ですがが・・・・

 (なんか、著者の中島義道的な書きぶりなっています)

 

私はこれまでの人生で(いわゆる)幸福を求めなかった。絶対的不幸

が存在する限り、それはにせものであることを知っていたからであ

る。そして、ただ絶対的不幸だけをじっと見据えて生きてきた。

まさに絶対的不幸の自覚が、あらゆる幸福幻想を吹き飛ばしてくれ、

世間的な卑小な不幸を蹴散らしてくれ、幸不幸に囚われない生き方に

導てくれ、そして私に真に生きる力を与えてくれることを知っていた

からである。

死という絶対的不幸が同時に私を救ってくれた。人生の妙味に触れる

思いである。  P36

 

他人から「あんな屑みたいな本を同じテーマで次々書いて、ぼろ儲け

じゃないか。読者を騙すなよ」とか「もう、いいかげん大学辞めろ

よ」と正面攻撃されて、ようやく安心する。

これって、カネに関する薄汚れた不徹底な「原罪」の意識なのかもし

れませんね。  P62

 

ウイーンでドクターを取り、37歳で東大助手として戻ってきたとき、

私はようやくまともな世界に受け入れられたと自覚したが(中略)

そのころから、私はとにかくまともな世界で足蹴にされないように、

まともな世界で生きぬくために、必死の思いで自分の体を鍛えてきた

のである。  P71

 

哲学は正確に反対のベクトルを持つ二つの要因が不可欠なのだ。

繰り返していえば

(1)(いかにばかげたものであろうと)自分にとって重要な問いを

しっかりつかみ、それにこだわ能力。

(2)他者(かつての大哲学者も含む)の問いを正確に理解し、他者

とのコミュニケーションを通じて自分固有の問いを磨き上げることの

できる能力(そのためにある程度の哲学的知識と技術が必要であ

る)。  P77

 

現代の若者が優れている、という見解

①インターネットのに利用をはじめとする情報収集能力

②身体に染みついた人権思想

③彼らの親たちのように、カネにもモノにも執着しない

④アブノーマルなことに関して寛大

⑤自然な形での個人主義が芽生えており、国家に対しても醒めている。

⑥最近の若者は、優しい  P98-99

 

 現代日本は奇跡的なほど人類の夢を実現した稀有な国である。安全で

あり、飢え死にすることもなく、凶悪犯罪も極めて少なく、そこもか

しこも清潔で、人々は親切で、かなりの知的水準にある。独裁者も奴

隷もいない。私がいらだつのは、こんなに何もかも与えられ(獲得

し)たうえに、さらに「心の豊かさ」までも、「生きる希望」までも

要求する現在日本人(の一部)の傲慢さである。   P102

 

 仕事とは、純粋に「気晴らし」であり、「最も重要なことは考えない

ようにしよう」という黙約の上に成り立っているものなのだから

現代社会に老いて、仕事と呼ばれているものの大部分は、商品やサー

ビスを提供することである。皆そのことに血眼になっている。

そのことに対してのみ対価(金)が支払われる。だから、この黙約を

破棄し、「どうせ死んでしまう」と呟くだけのこと対してなんの金も

支払われないのは当たり前なのだ。   P127

 

私は「ほんとうの問い」を表現せず生きることはできない。それは、

私が下品だからであり、俗物だからであり、弱いからであり、怠惰だ

からである。そのことを私は知っている。そういう私にとって、仕事

をするとは、こうした匿名の人々の厳しい視線に全身射抜かれなが

ら、「なぜ、私はもうじき死んでいかなければならないのか。

そして、それにもかかわらず、私は生きねばならないのか」という問

いを発し続け、語り続けることであるように思われる。  P129

  

 「家族至上主義」の重圧に苦しんでいる人は、少なくないように思

う。あなたが真に苦しんでいるなら、全力をもって家族から、その暴

力、その支配から、その掟から自らを開放しよう。一つ一つの先入観

を粉々に粉砕し、家族の絆を無限に希薄化しよう。

家族とはーーちょうど国家のようにーーあなたを保護し育ててくれる

とともに、貴方を破滅させ殺すものであるということを肝に銘じ

て・・・・  。    P159

 

「どうせ死んでしまう」ことをはじめとして、どう考えても人生は虚

しいのですから、せめて「虚しい」という本当のことを言える立場に

いたいと思いませんか?しかも、ただの不平不満をつぶやいているの

ではなく、できればその問いを掘り下げて、世界のあり方を解明して

みたいと思いませんか?能動的に積極的に、いわば虚しさをバネにし

て逞しくく豊かに生きたいと思いませんか?  P198

 

3.最後に読書感想

まず「身も蓋もない」感想から。

一つ、著者が、経済的基盤を確立できたことは、すばらしい。

考えてみれば、当然の結果であり、もしそうでないとすれば、私が手

に取って、読めるはずはないのだから・・・・

次に感じたのも、これも「普通」のこと。

何の本もそうだが、「役立つかは、読む人のそれぞれの価値観次第で

ある。死について真剣に考えたことのない人間には本書は価値がない

のでしょう。

 著者はそれでも、生きていることに意味はないと絶望せず、死を考え

ることを自らの生としている強さを、感じた次第です。