ハイエクの経済思想
自由な社会の未来像
吉野裕介/著
出版者 勁草書房 2014.3
1.概要
(1)知識や情報といった概念を社会科学に採り入れ、その重要性と
位置づけを論じた先駆者であったハイエク、との見解があります。
最新のハイエク研究の成果とインターネットなどの技術革新や社会変
動をふまえ、これからの社会のあり方を考察しています。
(2)ハイエクについては、過去に「隷属への道」や、解説書をいく
つか読んでいて、「私の好みの人物」のひとりですが、理解はなかな
か進んでいません。
第Ⅱ部 ハイエクの自由主義をめぐる議論に各章において「はじめに・
結語」が記載され、理解の点で読み進める上に、大いに助かりまし
た。
著者が35歳くらいの時の著作のようです。若いですね。
2.理解の補足
2つの資本主義観として、岩井さんが整理しています。
〇新古典派
・市場の「見えざる手」の働きに全幅の信頼
・資本主義をどんどん純粋にしていき、地球全体を市場によって
覆い尽くせば、効率性も安定性も実現される「理想状態」に近づ
くと言う主張
・フリードリッヒ・ハイエク、 ミルトン・フリードマン
〇不均衡動学派
・資本主義に理想状態はない
・資本主義がある程度の「安定性」を保ってきたのは、市場の
自由な働きを阻害する「不純物」があったから
・効率性と安定性は「二律背反」の関係
(P81-85)
丸山俊一/著 NHK「欲望の資本主義」制作班/著
出版者 東洋経済新報社 2020.3
3.本文からの引用
反共産主義や反福祉国家論の文脈でのみハイエクを位置づけるだけで
なく、今や知識や情報を基礎においた新しい社会を構築する思想とし
てハイエクを解釈することが可能である。彼の一貫したスタンスと鋭
い洞察から導かれる「知識」を中心とした世界観は、新しい時代にお
ける個人と社会との関係、つまり「自由な社会の未来像」を構築する
ヒントになるだろう。 P7
1941年の『資本の純粋理論』」執筆以来、理論経済学から離れたハイ
エクは、社会哲学分野の研究に関心が移行する。かれが批判の対象と
したのは、マルクスやケインズといった人物ではなく、人間が社会を
総体的に把握し、それを理性的に設計できるとかが得る「思いあがつた」
方法論や思想そのものにあった。 P170
ハイエクの考える自由は『隷属への道』というヒット作を契機に、価値
としての自由から手段としての自由の色合いが強まる。 P202
彼の主張は具体的には、一般的ルールによる法の支配と、そのもとで
人々が自由に行動することを保証することに、政府の役割を制限する
ことである。このため、ハイエクの自由主義は、「無政府主義」や「自
由放任主義」もしくは「自由至上主義」というような、自由をどこまで
も推し進めようとする思想とは一線を画す。 P245
何をして社会がカオスにならぬよう作用せしめているのか。(中略)
これこそが、自由な社会を運営して行く際の枢要ともいえる問であり、
それに対するハイエクの答えは、「自生的秩序」と並べて使用した
「文化的進化」という概念にあった。 P270
自生的秩序と文化的進化という二つの概念は、個人の自由な行動から
自生的に生まれつつあり一定の秩序立った状態を表し、それ自体が文
化として歴史過程を経るなかで進化していく、という彼の社会哲学の
中心になっている発想なのだ。 P272
本書の結論を述べよう。すなわち、自由な社会の未来像とは、政府が
「開かれた政府」になることで、「参加型社会」を提示し、人びとの
「知識の豊かさ」を成長の基準として目指す社会である。 P296
4. 再び感想
年末年始 の、いつもよりさらに時間のある時を、割いた取り組んだの
ですが、またまた集中力の衰えた、間延びした時間でした。
何の脈絡ありませんが、「忙しくて時間が取りにくい中やりくりして
趣味に没頭するのは楽しい」ということばを思い出しました。
幾多先人が言うように、「今日を人生最後の人思え」的な緊張感が、
書籍の真意読解には必要だと、思った次第です。
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