中高年michiのサバイバル日記

世の中のこと、身の回りのこと、本のこと、還暦の中高年がざっくばらんに書きつける日記

文明のなかの科学(読書感想文もどき)久々の村上陽一郎さん キーワードは寛容

文明のなかの科学

村上陽一郎/著  

出版者    青土社 1994.6

1.概要

著作(翻訳でなく)は、久しぶりに、村上陽一郎さんを取り上げます。

「死」の臨床学(読書感想文もどき) 実体験と広い教養ベースの村上陽一郎氏の深い思索 - 中高年michiのサバイバル日記

一昨年の11月20日「死」の臨床学 以来となります。

本書は、1994年の著作ですが、村上陽一郎さんのたくさんの執筆の

テーマが、この本に網羅・集約されている感じです。

「科学」「技術」の誕生、日本における科学技術、文明と文化、

近代文明とキリスト教、科学革命、寛容の徳、多元主義といった、

議論です。 

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硬めの本に、この本棚イラストはお気に入り

2.本文からの引用

科学者とは、良くも悪くも、まさしく、近代社会が生んだ産物

である。 (中略)

近代社会とじゃ、産業革命と市民革命を経、私の言う「聖俗革命」

を経た19世紀的ヨーロッパ社会を指している。  P31

 

キリスト教の絶対的な唯一性が、社会の「常識」として存在して

いるときに、少なくとも「多元的な」価値の存在を説き起こした

ロックの『寛容についての書簡』の持つ当時の社会における意義は

高く評価されてよいし、それは決して、単に歴史のなかの出来事

として見過ごすことのできない、現在性を持っているように、私に

は、思われる。  P207

 

 仮に、全世界が、西洋近代文明の主張するように、近代文明化すべ

きものであり、かつ実際にそうなったとすれば、そのことは、資源、

エネルギーその他あらゆる面で、近代文明が崩壊することにつながる。

それが、現在のいわゆる「環境問題」と言われるものが、我々に教え

るところの教訓の一つである。   P227

 

文明とはまず文化の一つの形態であって、自らの文化を自らのなかだけ

にとどめず、他の(周辺の)諸文化にも強制しようとする意志を持ち

しかもその意思を実現し貫徹するための社会的な制度や仕掛けを備えた

ものという定義が正しいとすると、

その普遍化の意志と仕掛けとは、それ自体が二つの意味で自殺的である。

第一:一つ一つの文化の持つ個別性や独自性を無視し、それらを押し潰

そうとするがゆえに、結果的には他の文化の独自性を確立する方向に誘

う「普遍化」への抵抗を作り出し、「文明」の普遍性に否定に動く

第二:一つの文化が「文明」として働くとき、諸文化は否応なくある程

度均されてしまう。したがって「文明」の作り出す所産は、「文明」が

成熟すればするほど明確な特色を失い、「退屈」で「つまらない」もの

になる。  P228-229

 

まさしく原理的にも、あるいはより実際的な配慮に基づく実践の手段と

しても、その双方の場面で『「普遍的・絶対的・唯一の解」の存在を暗

黙に信じあるいは希求してきたこと』を放棄する、という立場にたとう

というのが私の提案であり、それこそが「寛容である」というのが私の

主張である。 P242

 

文明の普遍主義と文化の多元主義、しかも文明も文化もともに、その普

遍主義と多元主義それ自体を主張することにおいて文字通りアンビヴァ

レント(二価試行的)に硬直化しているような状態に対して、すべての

価値を考慮した判断や、あらゆる要求を前提とした判断は不可能である

 P243

  

ただ一つ、われわれが世界に向かった、発信できることがあると

すれば、それは、多元主義のなかでの問題処理(「解決」ではなく)

の手続きに関わる機能的概念(「道徳的」価値ではなく)としての

「寛容」ではないか。

そんな思いが、この本へと私を駆り立ててきた。私にとって、その点

で、珍しく、非常に「政治的」な視点を孕んだ書物になった。 

(P250 あとがき)

 

3.本書の感想文

(1)冒頭のリンクの「死の臨床学」では、私は以下のような、

感想を書いています。

全体通読して、村上さんの子供世代にあたる私ですが、

改めて重い現実を突きつけられて、再認識させられた

た感じです。

本書は、80歳をすぎた村上さんが、深い教養と、現場

目線双方をもって書かれた、稀有な本かと思います。

(2)本書は1994年、彼が58歳ときの出版のようですし、学者と

しての集大成の頃でしょう。 

然るべき年齢で、しかるべき著作(学術書、専門書でなく、私が

読めるような一般書)を残せるということは、それはうらやまし

いことに思えます。

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