武器になる哲学
人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50
山口周/著
出版者 KADOKAWA 2018.5
「無知の知」「ロゴス・エトス・パトス」「悪の陳腐さ」「反脆弱
性」哲学・思想のキーコンセプト50を、ビジネスパーソン向けの新し
い視点で解説しています。
つまりアウトプットの解説でなく、むしろアウトプットを主張するに
至った思考のプロセスや問題に向き合う態度をストーリーとして紹介
する、という視点です。
現役で活躍する経営コンサルがまさに、「哲学の使い方」を書いてい
る、と言えます。
哲学・思想を学ぶメリットを4つ挙げていますが、同感です。
①状況を正確に洞察する
②批判的思考のツボを学ぶ
③アジェンダを定まる
④二度と悲劇を起こさないために P6
2.50のキーコンセプトから
知的戦闘力を最大化するコンセプトを「人」「組織」「社会」「思
考」に分けて解説しています。
私のお気に入り文章のいくつかを、紹介します。
07 報酬
一般に欲求系は快楽系より強く働くため、多くの人は常に何らかの
欲求を感じて追求行動に駆り立てられているのです。(中略)
なぜソーシャルメディアにハマるのか?それは「予測不可能だから」
というのが、近年の学習理論の知見がもたらしてくれる答えだという
ことになります。 p96
09 悪の陳腐さ
人類史上でも類を見ない悪事は、それにみあうだけの「悪の怪物」が
なした訳でなく、思考を停止し、ただシステムに乗っかってこれを
クルクルとハムスターのように回すことだけに執心した小役人によっ
て引き起こされたのだ、というこの論考は当時衝撃だった。 P105
11 認知的不協和
人間は主体的存在であり、意識が行動を司っているという自律的人間
像をフェスティンガーは覆します。社会の圧力が行動を引き起こし、
行動を正当化・合理化するために意識や感情を適応させるのが人間だ
ということです。 P120
12 権威への服従
これ(多数で行う広義の悪事)を防ぐためには、自分がどのようなシ
ステムに組み込まれているのか、自分のやっている目の前の仕事が、
システム全体としてどのようなインパクトを社会に与えているのか、
それを俯瞰して空間的、あるいは時間的に大きな枠組みから考えるこ
とが重要です。 P128
15 マキャベリズム
リーダーはそれがビジネスであれ、他の組織であれ、家族であれ、自
分が長期的な繁栄と幸福に責任を持つのであれば、断じて決断し、あ
るいは行動しなければならない時がある、ということをマキャベリズ
ムは教えてくれます。 P148
戦前には村落共同体が、高度成長期からバブル期までは企業
が ゲマインシャフト的要素を担っていた。
今後、鍵になるのは「ソーシャルメディア」と「2枚目の名刺」P162
19 カリスマ
支配の正当性の担保 歴史的正当性、カリスマ性、合法性の3つ
私たちは、この数少ない「カリスマ性を持った人物」をどれだけ「人
工的に」育てられるかどうか、にチャレンジしなければならない。
P176
29 自然淘汰
自然のそこかしこに見られる「偶発的なエラーによって進化が駆動さ
れる」という現象は、私たちの社会にも大きな示唆を与えてくれるよ
うに思います。P238
30 アノミー
デュルケームが言っているのは「社会の規制や規則が緩んでも、個人
は必ずしも自由にならず、かえって不安定な状況に陥る。規制や規則
が緩むことは、必ずしも社会にとってよいことではない」というこ
と。 P241
会社という「タテ型構造のコミュニティ」が、自分にとってもはや安
全なコミュニティではありえない、ということを認識した上で、自律
的に自分が所属するコミュニティを作っていくのだ、という意思を持
つこと。 P244
36 差異的消費
私たちがどのような選択を、どれだけ無意識的に、無目的に行ったと
しても、そこには自ずと「それを選らんだ」ということと「他を選ば
なかった」ということで、記号が生まれてしまう、ということです。
この窮屈さから逃れられる人はいない、私たちはそのような「希望の
自学」に生きている、というのがボードリヤールの指摘です。P278
42 弁証法
何の足がかりもないままに「未来を予測しよう」と考えても、白昼夢
を見るように空想するしかないわけですが、昔からあったものなの
に、非効率ゆえに一時的に社会から姿を消したものが、別の形態とっ
て社会に発展的に復活してくる、と考えれば具体的なアイディアが浮
かんでくるのでは無いでしょうか。 P315
本当の意味での「科学的である」ということは、「反論の可能性が外
部に対して開かれている」ということであり、さらに言えば、科学理
論というのは「搬送可能性を持つ仮説の集合体」でしかない。 P331
46 プリコラージュ
この不思議な能力、つまりあり合わせの良く解らないものを非予定調
和的に収集しておいて、いざというときに役立てる能力のことをレヴ
ィ=ストローズはプロコラージュと名付けて近代的で予定調和的な道
具の組織と対比して考えています。 P335
3.最後に
看板(冒頭のプロローグ)にたがわず、良い頭の整理となり、とても
役に立ちました。「個人的な有用性」の触れ込みも、その通りとなり
ました。