1. はじめに
ブログのカテゴリーは、読者にとってどうでもいいことですが「書評」
の範疇に、はいりますでしょうか。
私にとっては、漱石の講演は、近づき難かったのですが、なんとか読ん
でみた、という具合でしょうか。偏見もありました。漏れ聞いたエピソ
ードから、本人が偏屈で、傍若無人で、周りの人は対応がとても大変そう。
今回、夏目漱石の講演である「現代日本の開花」と「私の個人主義」を手
に取りました。ただし、文章を読む限りは、普通人でした。
この二つの論評はよく見聞きするし、先人のいろんな整理の中で、講演
の趣旨、概要は、ある程度把握していました。
しかし、実際に読む(原典に当たる)のは、なんと初めてです。
おっかなびっくりでしたが、論文形式でなく講演ですので、なんとか流
れについていけた気がします。
素論、深い表現は、小説同様100%理解には、程遠いです。
出典は、
私の個人主義
シリーズ名 講談社学術文庫
夏目漱石/〔著〕
出版者 講談社 1978.8
2.私の個人主義 から
「坊ちゃん」の中に赤シャツという渾名を有(も)っている人が
あるが、あれはいったい誰のことだと私はその時によく聞かれた
ものです。誰の事だって、当時その中学に文学士といったら私一人
なのですから、もし「坊ちゃん」の中の人物を一々実在のものと認
めるならば、赤シャツはすなわちかくいう私のことにならなければ
ならんので、ーーーはなはだ有り難い仕合せと申し上げたいような
わけになります。 P129
第一に自己の個性の発展を仕遂げようと思うならば、同時に他人の
個性も尊重しなければならないという事。第二に自己の所有してい
る権力を使用しようと思うならば、それに付随している義務という
ものを心得なければならないという事。第三に自己の金力を示そう
と願うなら、それに伴う責任を重んじなければならないという事。
つまりこの3カ条に帰着するのであります。 P147
これを外の言葉で言い直すと、いやしくも倫理的に、ある程度の修
養を積んだ人でなければ、個性を発展する価値もなし、権力を使う
価値もなしまた金力を使う価値もないということになるのです。 P147
それをもう一遍言い換えると、この三社を自由に受け楽しむために
は、その三つのものの背後にあるべき人格の支配をうける必要が起
こってくるというのです。もし人格のないものが無暗に個性を発展
しようとすると、他(ひと)を妨害する、権力を用いようとすると、
濫用に流れる、金力を使おうとすれば、社会の腐敗をもたらす。
ずいぶん危険な現象を呈するに至るのです。 P147
なんだか個人主義というとちょっと国家主義の反対で、それを打ち
消すように取られますが、そんな理屈の立たない漫然としたもので
はないのです。(中略)
事実私どもは国家主義でもあり、世界主義でもあり、同時に個人主
義でもあるのです。 P152
3.近代日本の開化 から
かくて積極消極両方面面の競争が激しくなるのが開化の趨勢 P53
果たして一般的の開化がそんなものであるならば、日本の開化も開
化の一種だからそれでよかろうじゃないかでこの公園は済んでしま
うわけであります。
がそこに一種特殊な事情があって、日本の開化はそうはいかない。
なぜ、そうはいかないか、それを説明するのが今日の講演の主眼で
ある。 P54
西洋の開化(すなわち一般の開化)は内発的であって、日本の現代
の開化は外発的である。ここに内発的というのは内から自然に出て
発展するという意味でちょうど花が開くようにおのずから蕾が破れ
て花弁が外に向かうのを言い、また外発的とは外からおっかぶさった
他の力でやむを得ず一種の形式をとるのを刺したつもりなのです。
P54
これを一言にして言えば現代日本の開化は皮相上滑りの開化であ
るということに帰着するのである。(中略)
事実やむをえない、涙を呑んで上滑りに滑っていかねばならない
というのです。 P62
では、どうしてこの急場を切り抜けるかと質問されても、前申し
た通り私には名案も何もない。ダダできるだけ神経衰弱に罹らない
程度において、内発的に変化して行くが好かろうというような体裁
の好いことを言うより外に仕方ない。 P66
4.再度感想
加齢が進むと、何か新しい知識を身につけて、それが2,3回転して、
近い将来の自分の収益に結びついて・・・・ということを、あまり
思わなくなりました。いや「思えなく」が近い表現かな。
エンターテイメントというより、古典ともいえる夏目漱石の講演を
聞いて、まかりなりにも、ある程度理解できて、疑問の少し解決し
てそれで満足でいいでしょう。
「自分の将来に役に立つ」はおろか、本を読むことの意味合いが解
らなくなることも多々あります。
一つ言えるのは、何らの強制力なく、自分の意志で読んでいるのだ
から、それでいいではないか、というくらいです。
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