歴史を活かす力
人生に役立つ80のQ&A
出口治明/著
出版者 文藝春秋 2020.12
1. 概要
日本史、世界史の垣根を越えて、「マネー」「失敗」「リーダー」など10
のテーマに分類し、一問一答形式で歴史のエッセンスを易しく紹介して、
います。出口さんの作品の中では、もっとも基本的なもので、ビジネス
やプライベートにも使える歴史知識を書いています。
断定的表現も、後半で深い知識と経験、これに基づく自信から来ていると
私は考えています。
2.本文から引用
奈良時代から平安にかけて日本のGDPはほぼ横ばいだった徐が、平清盛の
時代から少しずつ上向いてきたという研究もあります。それは宋銭という
通貨によって我が国で貨幣経済が始まったおかげとみていいでしょう。
国内で通貨を製造することなく、宋銭のような渡米銭で国内キャッシュ
フローを賄うことは、江戸時代の慶長通宝、寛永通宝の頃まで400年以上
も続きました。
我が国最初の武家政権を樹立した平清盛は、お金についてのセンスもず
ば抜けていたことが解ります。 P22
江戸時代が不幸だったのは、大飢饉だけが原因ではありません。政策も
問題だらけでした。日本の歴代政権を古代からずっと比較すると、江戸
幕府は最低だったというのが僕の持論です。
最大の失敗は、やはり鎖国です。「人間は交易によって豊かになる」と
いう基本原則に反した政策は、思い切り経済の足を引っ張りました。
P39
共産主義が失敗した理由は、人間はそれほど賢い動物ではないから。
マルクスやレーニンは「人間はアホやから未来のことは解らないし、
計画も立てられへんで」とはおそらく考えなかったのでしょう。
中国は中国共産党という名のエリート集団が政権を握っているだけで、
実態は共産主義国ではありません。特にこの半世紀は、市場経済をガ
ンガン導入してきました。 P61~63
ローマ帝国も大元ウルスも、リーダーの失敗で滅びたのではなく、
きっかけは地球の気候変動でした。産業革命以前に滅びた大帝国のほ
とんどは、気候変動に伴う諸部族の移動や病原菌の移動が主な原因と
なっています。
産業革命までは農業が主たる産業でしたから、当たり前と言えば当た
り前です。人間に失敗があったとすれば、気候変動によって大帝国は
滅びるものだと言うことに気づいて対処しなかったことかもしれませ
ん。 P72
阿部正弘の優れたグランドデザイン、クリミア戦争による列強の無関
心岩倉使節団の大成功、大久保利通という不世出のリーダーの存在
など、大穴馬券が4~5回連続で当たったくらいに幸運続きだったのが
明治維新です。日本の戦後復興もそれに近いですが、大きな成功には
ほとんどと言っていいほどの運(偶然)が味方しています。 P134
キリスト教が台頭した主な理由は、三つあります。みんながわかる言葉
で布教を行った頃、他の宗教から人気のキャラクターやアイテムを積極
的に借りてきたこと、そして教会組織が情報ネットワークを構築してい
たことです。 P184
ローマ軍が強かったのは、戦うときには必ずと言っていいほどきちんと
清朝にロジスティクスを整備し、情報のスピードを重視して、リーダー
が先頭に立って戦う。減殺のリーダも見習う点が多い。 P215
ハンニバルは、15年間にわたってイタリア半島に踏みとどまって戦い
ました。その間本拠地のカルタゴからの物資の補給はそれほどなかっ
たようです。
普通であれば「いつまで戦い続けるのか!もう嫌だ」と部下がクーデ
タを起こしてハンニバルは殺されてしまいそうです。
そういったウワサが一つ として伝えられていないことからも、ハンニ
バルが最強のリーダーだったことが解ります。 P226
3.少し毛色変えて
私がこのブログで、一番多く紹介しているのは出治明さんです。
彼の歴史観、人間評価視点、ビジネス感覚には、いつも大きな敬意
を表しています。
とはいえ、別の人格だし、ある点で考え方の相違があるのは、当たり
前のこと。今日はいつもと違った、コメントを。
米国大統領について、出口さんはフランクリン・ルーズベルトを高く
評価し、ドナルド・トランプについては、非常に低い。
一方、私は、一族含めた中国との関係、第二次世界大戦に至るまでの
日本誘導観点か私は、高くは評価していなくて、逆にドラルド・トラ
ンプの「実績」を非常に買っています。
出口さんと私の評価が違う、数少ない論点の一つです。
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