中高年michiのサバイバル日記

世の中のこと、身の回りのこと、本のこと、還暦の中高年がざっくばらんに書きつける日記

科学的思考とは何だろうか(読書感想文もどき) キーは「境界を踏み越えない姿勢」

科学的思考とは何だろうか

ものつくりの視点から

シリーズ名           ちくま新書 461

瀬戸一夫/著  

出版者    筑摩書房 2004.3

1.概要

「独創的でありつつも一貫している」科学の精神史。

古代のタレスから近世のガリレオ、さらに現代のアインシュタイン

革命までを現場感覚で丁寧に検証しながら、科学的思考の本質を描

き出す。

古代部分がとても面白かったのですが

ここの目次だけ抜き出すと

第一章 人類最古の科学

 第1節 経験的な知識と科学の知識

 第2節 分かりやすかった科学の祖先

 第3節 異文化交流が生まれた科学

 第4節 神話から獲得された合理性

 第5節 古代のビッグバン・セオリー

なお、

第二章 権威を相対化する近代の科学

第三章 科学の宗教家と宗教の科学化 

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ガリレオガリレイの連想で、ピサの斜塔です。

2.ピックアップ

タレスは神話の説明を単純に捨て去ったのではない。

かれは神話の説明手順を、いわば逆立ちさせることで、独自の説明方

法を獲得した。

かれは分かりやすいことをもとにして、分かりにくいことや、神秘的

なことの理解に努めていた。これは現在の常識にもとづく理解の仕方

と同じ方向をとっている。  p39

 

 アナクシマンドロスは独自の観点から発見した、さまざまな神話に共

通する形式を、ヘシオドス体系の鍛え直しのために用いている。

つまり、かれは異文化との接触から学んだことを、自分自身の本領で

あったギリシア文化の自己鍛錬に向けて生かそうとしたのである

P60

 

現代の自然科学は、自然の人間化追求している。

古代ギリシアに生まれた科学の祖先は、逆に人間と人間社会が自然に

ふさわしいものへと自己変革することを、不断に追求していた。

すなわち人間の自然化が目指されていたといえる。  P81

 
権威のある人たちが、世論を強力に動かしている実情は、今も昔もあ
まり変わらないということだろう。     P92
 
ガリレオは当初から、他人の立場に立つという幻想をきっぱり断ち切
って、頑固一徹自分自身の見方にこだわり抜いた。  (中略)
逆説的にも結果として、本当に他人の立場を理解する境地に至ったの
である。     P133
 
ガリレオアリストテレスの世界体系とコペルニクスの世界体系を
話させ、両者のあいだを往復する対話に読者を乗り込ませる戦略をと
っていたことである。
これによって、かれはとてつもなく深遠な境地から、互いに対立した
二つの異質な世界体系を、いずれも採用可能な選択肢として、共に
生き残らせた。
ガリレオの驚嘆すべき功績はまさにこれである。  P139
 
相対論は実のところ、わたしたち人間が対等に学び合う、そうした境
界に立つ立場を、他者の支配とは無縁の客観的知識にまで、すなわち
科学の理論にまで洗練したものである。
しかも、ここまでの話からわかるように相対論のなかには永遠の神
も全能者も場所を持たない。
にもかかわらず、相対論は科学と異なった領分のことを信じる姿勢に、
けっして傷を与えないのである。   P237
 
 科学的思考とはなにか。
それは「境界を越えて学ぶ好奇心」に従いながらも、けっして「境界
を踏み越えない姿勢」に徹し、あくまでも「境界に立つ立場」から、
常識をより豊かにする思考であった。
そのよう思考は、本書で紹介したように、ものづくりの伝統のなかで
今もなお生き生きと躍動しているのである。   P239
 
(以下2点は、「あとがき」からです。)
バブル崩壊からこれほど時が経過したにもかかわらず、多くの人たち
が今や「思想の使い捨て」に走っているようなのである。 P242
 
我が国はすでに、消費型文明の終わりをむかえそこから脱皮しなけ
れば衰退する岐路に立たされている。   (中略)  
脱皮にむけて今後の主体となりうるのは、ものつくりの精神に富んだ
「シルバーパワー」なのではないかと、著者は密かに考えている。
 P244
  
 3.最後に(今日も感想文的)
 (1)人間は変わらないな、といういつもの感想。
 今日の「変わらない」は、昔から賢い人はいるし、科学的思考を
遂行している人でした、ということ。
本書はタレスガリレオアインシュタインを取り上げていますが、
古今東西、同様の「科学的思考」ができた人は幾多もあったように思
います。
 (2)「あとがき」にある「消費型文明の終わりと脱皮の必要性」を
私もおぼろげながら、感じている。
ややビックリしたのは、「シルバーパワー」への期待。
著者の瀬戸一夫さんは、1959年生まれとあり、今後は「シルバー
パワー」中核の一人ですね。
他の書籍にも指摘ありますが「シルバーパワー」年齢は、知識と経験
の蓄積あり、肉体は衰えても頭脳は衰えていない等々から、前途有望
だと、言われています。
こちらも同感です。