人種と歴史/人種と文化
クロード・レヴィ=ストロース/[著]
渡辺公三/訳
三保元/訳
福田素子/訳
みすず書房 2019.10
1.概 要
今回はレヴィ=ストローズです。
いきなり脱線ですが、我々がベースとする西洋学問のバックボーン
にあるのは、ギリシャ・ローマ哲学と、キリスト教ですよね。
私の個人的感覚ですが、ギリシャ・ローマの哲学は、考え方や文化
含めは抵抗が少ないのですが、キリスト教的世界観はどうも、合い
ません。
ここでレヴィ=ストローズが対峙する多くは、キリスト教的世界観
を持つ人ですから、彼らの人種主義の思想根拠を破していくのは、
鋭利で納得性の高い論理が必要であり、
それに成功した結果が当該書籍が古典的名著として、残っている
のでしょう。
私自身は、論旨展開における論理的に緻密な整合性を、十分理解
できたか、については不安ですが、趣旨には「感覚的に」納得した
次第です。
さて、概要は
生物学的進化論を基にして、ある面大流行した社会進化論を批判
しています。
歴史の進歩とは、それぞれ語る側の理屈によるところであり、
相対的なもの。
あらゆる社会に存在する自族中心主義を批判し、徹底した文化の
相対主義を主張しています。
我々に必要なのは、寛容です。
といったところでしょうか。
2.構成と引用、及びコメント
➀構 成
人種と歴史
Ⅰ 人種と文化
Ⅱ 文化の多様性
Ⅲ 自民族中心主義
Ⅳ 古代文化と未開文化
Ⅴ 進歩の理念
Ⅵ 停滞的歴史と累積的歴史
Ⅶ 西洋文明の位置
Ⅷ 偶然と文明
Ⅸ 文化間の協働
Ⅹ 進歩の二つの意味
人種と文化
②引用とコメント
いつものように( )内は私のコメントや要約、補足
「どんな基準を取ってみても、ある文化が無条件で他の文化より
優れていると判断することは許されない」(P11)
( 序文からの引用です。レヴィ=ストローズの
民俗学的考察の基盤
の一つでしょう。
これが「感覚的に解る人」というのはやはり少数派なのでしょう)
純粋に生物学的な人種の観念と、人類文化の社会的、心理学的生産物とを混同してしまうところに、人類学の原罪がある。 (P26)
(「
社会進化論」とか、銘打って一時期流行したのでは?)
人類の諸文化の不平等性の問題もあわせて検討することなしに、
人類の諸人種の不平等性は存在しない(P29)
(と短絡的に考えてはならない)
人類文化の多様性は、現在においても過去においても、われわれ
が知ることができるより、はるかに大きくまた豊かである。(P30)
生物学的進化論と、ここで取り上げている疑似進化論とは
極めて異なった二つの学説(であり)、前者を基礎づける観察には
解釈が入り込む余地は極めて少ない。(P40)
歴史性とは、あるいはより正確に言えば、一つの文化の、文化的
過程の出来事の豊かさとはそれらの出来事の内在的な特徴でなく、
それらに対してわれわれが置かれた状況、それらに賭けられた我々
の利害の数や多様性との関係次第で変わるものなのである
(P57)
第一に西洋文明は、住民一人当たりの使用可能エネルギー量を常に
増大させることを模索している。
第二に人の生命を保護し、寿命を延ばそうと模索している。(P69)
(「冷たい社会」に対すえる「熱い社会}ですね。)
(
産業革命まず西洋に起こらなくも、地球上の別の時点にある日出現してい
ただろう、という説を述べ)
数千年後の歴史家は、1、2世紀の違いをもって、誰が先取り特権を
主張できるかなどの議論は、不毛の議論と断じるであろう。(P79)
大革命である新石器革命と
産業革命は、社会の多様化をともなって
いただけでなく、集団間の差異化された地位、とりわけ経済的な
地位の設立をともなっていた。 (P92)
人類は常に矛盾した二つの過程にひきこまれており、一方は統一を
達成しようとし一方は多様化を保持ないし、回復しようとする。
(P96)
寛容は、・・・・ありたいと欲するものを予見し、理解し助長する、ダイナミックな態度なのだ。(P97)
(「人種と文化」から引用)
私たちは、私たちから遠い人種は、もっとも均質であると考えがちだ。
黄色人種は、白人には皆同じように見えるし、逆から見てもおそらくそうであろう。
現実の状況は、はるかに複雑である。(P117)
3.まとめと感想文
著者の主張を論理的に確り追えたかは、定かではありませんが、主張自体は、すっと腑に落ちるところです。
私は、生物学的な意味の人間が、神が作った他の生物と隔絶したもの
とは、思っていないし、人類の進歩も、それぞれ、産業革命以降の
今の世界秩序も、「たまたま」の繰り返して現在のようになった
と思っています。
人間の個々人の能力は、あまり差異がないし、人種観点で差異を見出
そうという観点も胡散臭い。
すべて相対的な世界だ、と思っているから本書も納得です。
(補足)
レヴィ=ストローズといえば、「野生の思考」でしょうが
私に読みやすかったのは「悲しき熱帯」の方です。