中高年michiのサバイバル日記

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暴力の人類史(読書感想文もどき) なるほど暴力は減少している、まず知ることが大事

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いじめも暴力

暴力の人類史 

 原タイトル:The better angels of our nature

著者       スティーブン・ピンカー/著  

幾島幸子/訳  塩原通緒/訳  

出版者    青土社 2015.2

 1.概要

主張自体はシンプルです。

人類史において暴力は、時代を追うごとに、減少している。

私たちは人類史上最も平和な時代に生きている、というもの

根拠の説明・分析が、詳細かつ素晴らしい-。

人類の歴史を通観しながら、神経生物学や脳科学などの知見を

駆使し、暴力をめぐる人間の本性を分析し、壮大なスケールで大胆

な仮説を提示しています。具体的には、

 ・人類史における暴力の減少には六つの動向(トレンド)があり、

・人間の暴力の誘発要因となる5つの動機と抑止要因となる4つの

機能がある。

・先の6つの動向は5つの内なる悪魔のいずれかが、4つの善なる

天使のいずれ かに打ち負かされてきた過程、というもの。

以下項目ごとの説明です

 Ⅱ.暴力減少の六つの動向(トレンド)

(第2章~第7章)

人類の暴力性からの交代は数多くの変化や発展によって構成され

ているがそれら にある一定の一貫性を持たせるため六つの動向に

まとめている

 ➀第一の動向 「平和化のプロセス」

紀元前5000年ごろから数千年単位で起きた変化。

人類の進化史の大半を占める狩猟・採集および栽培を基盤とする

統治機構

のない社会から、俊哉統治機構を持つ農耕社会への移行がこれに

あたる。

この変化によって、人々の生活を原始的な状態にとどめていた日

常的な襲撃や争いが減少し、暴力的な死を遂げる人の数が五分の一

ほどに減った。

  ②第二の動向 「文明化のプロセス」 

500年以上にわたって起きた変化

中世後半から20世紀の間に、ヨーロッパ諸国では殺人の発生率が

10~50分1に減少した。

寄せ集め的に存在していた封建領土が大きな王国に統合され、中央

集権的な統治と商業の社会基盤が出来上がってことに起因する

 ③第三の動向 人道主義革命」

数世紀というタイムスパン

17~18世紀の理性の時代とヨーロッパ啓蒙主義の時代

専制政治奴隷制、拷問、迷信による殺人、残酷な刑罰、動物に

対する残虐行為など、社会的に認められた暴力形態を廃止するた

めの組織的運動が起こるとともに、初めて系統的な平和主義の

動きがみられた。

  ④第四の動向 「長い平和」

第2次世界大戦後

戦後から現在までの三分の二世紀の間に、人類史における未曽有

の進展が見られた。

超大国、そして先進国の大部分が互いに戦争することをやめた。

  ⑤第五の動向 「新しい平和」

1989年に冷静が終結した後、あらゆる種類の組織的な紛争や戦闘

ーーー内戦、ジェノサイド、独裁政権による弾圧、テロ攻撃ーーー

は世界中で減少している

 ⑥第六の動向 「権利革命」 

とりわけ1948年の世界人権宣言以降、少数民族、女性、子ども、

同性愛者、動物などに向けられた小規模な暴力に対する嫌悪感

の増大。

1950年代末以降今日に至るまで、公民権、女性の権利、子供の

権利、同性愛者の権利、動物の権利など、人権から発生した、

様々な権利を擁護する運動が次々と起きてきたことを踏まえ

「権利革命」と呼ぶ

  Ⅲ.暴力の誘発要因となる5つの動機

五つの内なる悪魔(第8章)

攻撃はいくつかの心理学的システムによって生み出され、それぞれ

が異なる環境誘因や内的論理、:神経生物学的基盤、社会的分布を持つ

1.捕食的またま道具的暴力

   単純に何らかの目的のための実際的手段として行われる暴力

2.ドミナンス(権威や名声、栄誉、軽力などを求める衝動)

3.リベンジ(仕返しや懲罰、正義のための道徳的衝動を増幅さ

せる)

4.サディズム(他人の苦しみから快楽を得ること。)

5.イデオロギー(ある人々の間で共有される信条体系)

 Ⅳ.人間の暴力の抑止要因となる4つの機能

 4つの善なる天使(第9章)

1.共感(特に同情的関心という意味での)

2.セルフコントロール

   衝動に基づいて行動した結果を予想し、その行動を抑えよう

とする心の動き

3.道徳的感覚

   ある文化における人間同士の相互関係を規定する一連の規範

やタブーを正当と認めるもの

4.理性の機能

  偏狭な視点から抜け出させ、自省を促し、人間性のほかの

「天使」たちを活用する方向へ導くこと

 Ⅴ.暴力減少を促進した5つの歴史的な力(第10章)

1.リヴァイアサン

  合法的な力の行使を独占する国家と司法制度

2.通商

  すべての人が勝つことができるプラスサム・ゲーム

3.女性化

  様々な文化が女性の権利や価値を尊重する方向に向かってきた

プロセス

4.コスモポリタニズム

  読み書き能力や移動性の向上、マスメディアの発達により、

自分とは異なる人々の視点に立ち、そうした人々を認める共感の

領域を広げることができる

 5.理性のエスカレーター

  知識や合理性を人間に関する事柄に適用する度合いが高まる

に従い、暴力連鎖の不毛さ、自己利益優先の考えの修正、暴力を

勝つための争いでなく、解決すべき問題と、とらえ直すこと。

 Ⅵ.まとめ 

まず、著者の結句の紹介

私たちの人生にどれほどの苦難があろうとも、そしてこの世界にどれほど

の問題が残っていようとも、暴力の減少は一つの達成であり、私たちは

これをありがたく味わうとともに、それを可能にした文明化と啓蒙の力

を改めて大切に思うべきだろう。 P570

 日本語訳は上下巻で1,300ページにもなる大作です。

著者の主張は冒頭に書いたようにシンプルですが、確りデータと

分析及び理論構築、随所に見られる著者の熱い思いに、今回もまた

感服した一冊でした。