経済で読み解く世界史
著者 宇山卓栄/著
出版者 育鵬社 2019.2 扶桑社(発売)
1.概要
古代から現代に至るまで、通史で世界史を追い、世界経済の動きを
体系的に理解できるよう解説しています。
とても読みやすい、です。
「はじめに」の中に明確に趣旨の記載があります。(太字は私)
歴史を勉強することは物事の因果関係を見抜く思考力を鍛えるための
最高の訓練となります。
歴史はカエサルやナポレオンら偉人によって動くのでなく、名もなき
人々の怒り・不満・欲望・執念の集積によって動きます。
経済という尺度によって、それらの動向を追い、人間社会の一般原則
を導き出すこと、これが本書の目的です。
2.目次
概観
01 歴史の原因を経済に求める思考
02 時代のイメージを把握せよ
古代
01 古代の通貨戦争
02 自らの重みに耐えられず、瓦解する巨大機構
03 中国経済圏の形成
中世
01 ヨーロッパは中世に誕生したのか?
02 紙幣によって発展し、紙幣によって滅ぶ
03 世界を繋いだ銀
04 イスラム、巨大な経済圏の出現
近世
01 15・16世紀のジョイント・ベンチャー
02 ジェノヴァ・システムの崩壊
03 オランダの資金力と販売力の源泉
04 東西をつなぐ偉大なる仲介者オスマン帝国
05 清王朝、優れた利害調整能力の源泉
近代
01 バイオマスの再生スパンを超える近代
02 イギリスの「収益=略奪」のシステム
03 国家は国民の富を収奪する
04 18世紀のリフレ派ジョン・ロー
05 「大分岐(Tne great divergence) 」
現代
01 資本主義は絶えず再生する
02 世界恐慌
03 第二次世界大戦、危機の構造
04 中国と日本、通貨の戦争
05 外敵としてのソ連、内敵としての労働者
3.ピックアップ
歴史に与えた影響度の重要度よりも、私が、「なるほど」と思った
り、「知らなかった」という観点で抜粋しています。
か、
ギリシアで大規模銀山の開発が進むという背景で)
ペルシアの金流出が止まらなくなります。
ペルシア政権内部では、金貨の流出を食い止めるためにも、ギリシア
を征伐するべきとの声が強まり、紀元前480年、ついに
ギリシアへの
大艦隊の派遣が決定され、
ペルシャ戦争が本格化します。 P43
(なぜ、ローマは自分より強大な
カルタゴを滅ぼせたか)
ローマの人々は国家意識が強く、この戦争に勝たなければ、自分たち
の将来がないことをよく自覚し、私財を進んで投じ、財政を軍事に
集中させることを認めました。
を拒絶しローマを凌ぐ資金力・経済力がありながら、それを有効活用
できませんでした。 P54
ノルマン人は「
ヴァイキング=海賊」というイメージが強いのです
が、沿岸地域を略奪した「破壊者」というよりも、海運業によって
沿岸部をネットワーク化し、経済・産業を振興した「創造者」という
のが実態です。 P78
中世ヨーロッパでは、
カトリック教会が利子の徴収を禁止していま
した。
(
貨幣経済の浸透により、この徴利規程は空文化していき)
16世紀の半ばに(中略)ジャン・カルバンが5%の利子取得を認めた
し史上に豊富な資金をもたらしました。 P85
支配階級は自らの富を確保するため、土地などの生産手段を独占し、
多数の人間を貧困に閉じ込めます。
しかし、支配階級のこうした利己的行為は、経済学的に見れば、理に
かなったものと理解することもできます。 P89
宋王朝は紙幣という信用貨幣を用い、経済を拡大させることに成功
しましたが、ひとたび信用が損なわれると、すぐに経済がマヒしま
した。
信用貨幣の副作用とでも言うべき負の連鎖に襲われた
宋王朝が維持
この大量に日本銀は中国に向かいました。
明王朝は、海禁を敷いていたため、表立って貿易することはできず、
中国沿岸部で、密貿易が盛んにおこなわれました。 (中略)
明王朝から弾圧された「ニセ
倭寇」は中国に大きな貿易黒字をもたら
します。
彼らが道貿易で稼いだ大量の銀が流通し、
中国経済は、回復・成長し
ていきます。 P109
ら高い利払いを受けます。
一方、資金の預かり元であるヨーロッパ中の富裕層や投資家には、低
い利払いしか与えません。
この利払いの差益が
ジェノヴァの利益でした。 P129
富裕層というものはいつの時代でも、ハイリスク・ハイリターンの
一発勝負を好みません。
多くの富裕層の資金を集めることに成功し、イギリスに先んじて、
アジア交易を開拓していくことになります。 P142
オスマン帝国の単一通貨、単一市場は領域内に大きな経済的恩恵を
もたらし一部の周辺地域は、進んで
オスマン帝国へ帰属し、単一市場
たとえ、国際的な特許規制が整備されても、技術は国境を越え、必然
的に模倣されてしまい、しょせん、取り締まることなどできません。
(中略)
後進国には、どの時代においても、模倣の優位性があるの
です。 P184
(19世紀においても)中国は巨大な人口を有しているために、労働力
はきわめて豊富で、ヨーロッパと比べれば人件費はただ同然で、労働
コストを削減しなければならないという考え方がそもそもなかったの
です。
が働きませんでした。
このような事情は巨大人口を擁するインドにも、そのまま、あてはま
ります。
日本の場合、19世紀の労働コストは中国よりも高かったため、低価格
の労働力依存に陥ることなく、明治維新後は各産業で一気に機械化が
進みます。 P211
日本軍により発行された銀行券は、軍費調達のための手形である
軍票
都とともに乱発され、価値が暴落していきます。
結局、これらの銀行の銀行券は信用を得られず、ポンドやドルの裏付
けのある国民党政府の法幣に取って代わることはできませんでした。
こうして、日本軍は占領地での
ファイナンスに窮したため、軍事力に
よる強制徴収で、軍事調達するしかなく、広大な中国において、際限
なく戦線を拡大していきました。
日本軍はファイナンスの計画性をほとんど持たず、また当時、浸透し
つつあった法幣への対抗手段を持たず、無謀な戦争に突入したのです。 P274
4.私の感想
特に古代から中世ですが、生産性の向上が歴史に大きな影響を与えて
いたことが改めて解りました。
生産性向上とは、近代以前は、すべてとりもなおさず農業の生産
性の向上であり、気候変動の影響が極めて大きいことを再確認でき
ました。
つまり、暖かくなってくると生産性が上がると政体は安定傾向とな
り、安定が維持ができる政府は長続きする、ことになります。
(気候変動の影響は、最近いろんな分析を聞きます。)
末尾に引用した、第二次大戦前の日本軍の
ファイナンスは「なるほど
よく整理されている」と実感です。