中高年michiのサバイバル日記

世の中のこと、身の回りのこと、本のこと、還暦の中高年がざっくばらんに書きつける日記

反穀物の人類史(読書感想文もどき) 定住と国家継続は全く別物ほか 私の初期国家観は偏見でした

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定住から初期国家成立までの4000年をイメージ

穀物の人類史

国家誕生のディープヒストリー

原タイトル           原タイトル:Against the grain

 ジェームズ・C.スコット/[著] 

立木勝/訳  

出版者    みすず書房 2019.12

1.概要 

(1)話の論点は、

豊かな採集生活を謳歌した「野蛮人」は、いかにして古代国家に家畜

化されたのか?

国家形成における穀物の役割とは?

農業国家による強制の手法とは?

等について、考古学、人類学などの最新成果をもとに、壮大な仮説

を提示しています。

月並みな表現ですが、とても面白かった。

過去、自分が「通説」と思っていたことが、いや違うのはないか、と

気づいたときの、刺激への反応と言うか、快感です。

(2)目次

はじめに

序章 ほころびだらけの物語――わたしの知らなかったこと

1 火と植物と動物と……そしてわたしたちの飼い馴らし

2 世界の景観修正――ドムス複合体

3 動物原性感染症――病理学のパーフェクトストーム

4 初期国家の農業生態系

5 人口の管理――束縛と戦争

6 初期国家の脆弱さ――分解としての崩壊

7 野蛮人の黄金時代

 2.ピックアップ

湿地社会が見えにくい最後の、そしてさらに推論的な理由は、こうし

た社会が、中央集権化や上からの支配に環境面で抵抗し続けたこと

だ。 (中略)

後で検討する初期国家と違って、中央の権力が耕作可能地や穀物、灌

漑用水の利用権を独占することが(したがって分配することも)

できなかった。

そういうわけだから、こうしたコミュニティに何らかの階層構造があ

ったという証拠はほとんど残っていない。 

(なぜ無視されてきたか P53)

 

歴史上の行為者についての第一の、そして最も堅実な前提は、彼らは

与えられた資源と自分の知っていることを基に、直近の利益を確保す

るために合理的に行動する。  (ギャップに注目する  P55)

 

私は、初期の、記録のない時期に人口密集地が放棄されたうちの相当

多くは、政治でなく病気が理由だったと考えてまず間違いないと思

う。  (病理学のパーフェクトストーム P94)

 

定住とそれによって可能となった群衆状態は、どれほど大きく評価し

てもしすぎにはならない。

なにしろ、ホモ・サピエンスに特異的に対応した微生物による感染症

は、ほぼすべてこの1万年間にーーしかも、おそらく過去5000年のう

ちにーー出現しているのだ。  (同 P97)

 

社会から切り離された奉仕者という原理は、14-19世紀オスマン帝国

のイェニチェリ、中国の宦官、中世ヨーロッパの宮廷ユダヤ人など、

スキルはあるが政治的には中立な側近をおくという支配者のテクニッ

として、その後も長く行われてきた。

しかしある時点で、奴隷の人口が大きくなり、集住が進み、民族的な

つながりができてくると、この望ましい微粒子化ができなくなる。

(「人的資源」戦略としての奴隷制 P155)

 

交易と戦争による疾病は、初期国家の消滅に関してどれほど重要だっ

たのだろう。(中略)

わたしの直感では、古代世界で人口の中心だったところが理由もわか

らず突然放棄されたのは、かなりの割合までこれで説明できると思

う。  (急性疾患と慢性疾患 P177)

 

私は一つの偏見に異を唱えたい。

国家センターという頂点への人口集中を文明の勝利としてみる一方で

、他方では、小さな政治単位への分散を政治秩序の機能停止や障害だ

とする、ほとんど検証されることのない偏見に対して、である。

わたしたちは崩壊の「標準化」をめざし、これをむしろ定期的で、お

そらくは有益でさえある政治秩序改革の始まりとして見るべきだ、と

私は考えている。  (崩壊万歳 P191)

 

どう控えめに見ても、ただ国家の中心地で人口が減少し、巨大建築や

宮廷記録が存在しなくなったという理由だけで、その時代を暗黒時代

と名付け、文明の光が消えたのと同じだと理解するだけの正当な理由

はないと思われる。    (同 P194)

 

時期によっては、国家の臣民が鍬を捨てて狩猟採集、遊牧、海洋採集

を始めることが、自由への逃走であるとともに、合理的な経済計算で

もあったのだろう。

そのような瞬間には、国家の臣民に対する野蛮人の比率が大きくなっ

たと考えられる。

辺境での暮らしは魅力がないどころか、むしろずっと魅力的だったの

だから。 (黄金時代だったのか  P230)

 3.改めて感じること

 ヒトにより、取り方感じ方が違う、という当たり前のことを再度気付

かされます。

 考古学や歴史家にとっては、充分な研究材料が欠落すると「暗黒時

代」でしょうが、その時代の生活者からすると「くびきからの解放」

を意味することも、多々でしょう。

「当然のように聞いた」城壁や長城を築いて、外敵の侵入を防ぐとい

う目的も、実は「中にいる人を逃亡させない」ことが主目的の場合

も、有るようです。

なにごとも多面的に見るべし、と改めて感じた次第、です。