歴史の教訓
「失敗の本質」と国家戦略
兼原信克/著 出版者 新潮社 2020.5
1.概要
主張は、極めてノーマルです。
政治と軍事が国家最高レベルで統合されていない限り、日本は同じ
過ちを繰り返すかもしれないと危惧し、
近代日本の来歴を独自の視点で振り返り、これからの国家戦略の
全貌を示しています。
学術的な引用多数の定義の厳密さを競うより、自分なりの言葉で、
分かりやすく、書いています。
私の頭に、まだまだ小坂井敏晶さんの文章がぐるぐる回っていて
「普遍的価値観」とか言われると、「普遍的」とは何かと、少し
構えまずが「自由と民主主義」を主眼に置く主張は、同感です。
波長が合う、というと僭越ですが、ある程度自分の考えに近くない
と近現代史を、解説したこの手のモノは、読めません。
結論めくのは
アジアの民主主義国家が欧米の先進民主主義国家と協調し、
といったところです。
著者は、東大法学部を出て外務省に入省。
「官邸外交」の理論的主柱として知られた元外交官です。
外務省最後は国家安全保障局区次長も兼任、退官して現在は
さもありなん、といった著作でした。
人は、未来を見るために過去を見るのである。共通の未来があれば、
過去は共有できる。逆もまた真である。未来が変われば過去も変わ
る。歴史は常に生きている。 P18
自由や平等や法の支配といった価値観は、名前こそ異なれ、東西
文明を貫く価値観である。それを魁となって証明したのは、非欧州
文明国のアジアから近代化に先駆けた日本であった。 P24
朝鮮半島では、欧州植民地に見られるような奴隷制農場経営や奴隷
的使役による鉱山開発が行われていたわけではない。欧米人の植民地
経営のようにモノカルチャーのプランテーション経営で、伝統的な
社会構造、経済構造を破壊したわけでもない。逆に日本は、台湾や
満州の場合と同様、朝鮮半島でもいきなり重工業化を目指したのである。
このような植民地支配は、世界に類例がない。 P60
わずか三十数年に日本統治下で、朝鮮半島の人口は約千三百万人か
ら約二千五百万人に増加している。さらに二百万人が日本に出稼ぎ
に出ており、百万人が満洲に。さらに百万人が華北へ移住していた。
工場の数は数百から六千になりその半分は、朝鮮人自身の経営で
あった。稲作の生産性も二倍になった。P61
(michiコメント)
長案が引用したのは、事実に基づき記載に思えたから。特にこの
手の数字はなかなか、お目にかからなかった。私は台湾と朝鮮の
植民地経営に対して、バイアスのかかった記載に多く接してきた
ので、この記載は、私のお気に入りです。