岩井克人/[述]
丸山俊一/著 NHK「欲望の資本主義」制作班/著
出版者 東洋経済新報社 2020.3
1.概要
先日紹介した「経済学の宇宙」は、岩井さんの自伝的要素がありまし
たが、今回貨幣論にしぼり、かつ解り易いです。
仮想通貨=暗号資産が生まれ、キャッシュレス化が進行する時代の貨
幣、市場、資本主義とはなにか?
その本質に日本を代表する経済学者が迫ります。
下記はいい話と思いませんか?
私の好きなフレーズです。
「アダム・スミスさんは、ここを見逃してしまったんですね。」
インタビューの際、歴史上の巨人を「さん」付けで、まるで友人のよ
うに語る岩井さんの姿勢に、共感を覚えました。
「歴史の偉業」という物語に飲み込まれることなく、時代のテーマと
格闘した等身大の人間として、敬意をこめた「さん」付け。
こうした虚心坦懐な姿勢から、今につながるエッセンスをくみ取れる
のだと思います。
目次
第1章 「ビットコイン」は究極の貨幣か
第2章 金融投機と二つの資本主義論
第3章 貨幣は投機である
第4章 「資本主義」の発見
アリストテレスと「近代」
2.ピックアップ
インターネットの発達は、グローバルな資本主義社会の中のあらゆる
情報を、ほとんど同時に、ほとんどタダで、あらゆる場所の運ぶこと
を可能にしました。
資本主義社会自体がまさに「純粋化」してきたのです。
そして『貨幣論』で描いていた理論的な世界にどんどん近づいてきた
のです。 (P21)
私たちは、自由が増えれば安定性が減り、安定性を増すと自由が減っ
てしまうという「自由と安定との二律背反」の中で生きて行かざるを
えません。 (P25)
「資本主義社会においては、貨幣の価値だけでなく、すべての商品の
価値も、社会によって与えられる。」 (P44)
中央銀行が発行する紙幣も、安全性さえ保証されれば、貨幣として流
通します。
この結論から「銀行紙幣」制度へは一直線です。
ローは、銀貨それ自体ではなく、銀貨との交換を約束した紙幣(兌換
紙幣)を貨幣として流通させる制度を提唱するのです。 (P75)
2つの資本主義観
〇新古典派
・市場の「見えざる手」の働きに全幅の信頼
・資本主義をどんどん純粋にしていき、地球全体を市場によって
覆い尽くせば、効率性も安定性も実現される「理想状態」に近づ
くと言う主張
・フリードリッヒ・ハイエク、 ミルトン・フリードマン
〇不均衡動学派
・資本主義に理想状態はない
・資本主義がある程度の「安定性」を保ってきたのは、市場の
自由な働きを阻害する「不純物」があったから
・効率性と安定性は「二律背反」の関係
(P81-85)
1980年代からのグローバル化
グルーバル化は古典派経済学の基本思想の「壮大な実験」であった
2008年リーマンショック後の大不況
資本主義において、効率性と安定性は二律背反していることを実証
(P85-88)
このような市場価格の乱高下は、ミルトン・フリードマンが主張す
るような愚かな投機家の非合理性によるのではありません。
逆です。
頭がさえきったプロの投機家同士がおたがいの行動を何重にも合
理的に予想し合う結果として、市場が乱高下してしまうのです。
(P98)
貨幣を基礎とする資本主義社会とは、その貨幣が潜在的にはもっと
も純粋な投機対象であることによって、本質的に不安定な社会で
あるのです。 (P114)
貨幣を基礎とする資本主義社会は、本質的に不安定です。
その不安定性を放置しておくと、資本主義社会全体を、危機に陥れ
てしまいます。
自由を守るためには、自由放任主義思想とは決別しなくてはなら
ないのです。 (P118)
人間は「あらゆるモノを手に入れられる<可能性>」を与えてく
れるものとして「貨幣」それ自体を「欲望」する。 (P134)
「無限の欲望」ーー人間は、貨幣の出現によって、まさに無限の欲望
を身につけてしまったというわけです。 (P135)
「貨幣の無限の増殖」を求める経済活動ーーそれは、いうまでもなく
「資本主義」のことです。
アリストテレスが「商人術」と名付けた経済活動とは、まさに「資本
主義」にほかならないのです。(P136)
(貨幣の)流通は、まさに互酬的交換によってお互いが緊密に結びつ
けられていた共同体的な束縛から「個人」を自由にし、一人一人が独
立した一市民として議会で投票する民主制度の発展をうながしたとい
うのです。
まさにおカネの下の平等が、法の下の平等を生み出したというわけで
す。 (P150)
「思想の歴史を学ぶことこそ、人間精神を開放するための必須の準備
作業である。
現在だけしか知らないことと、過去だけしか知らないこととーー
一体どちらの方が人間をより保守的にするのか、私は知らない。」
3.最後に
何か、大きな契機気があったわけではないのですが、最近
「理解した」と言うのは程遠いですが、「ヴェニスの商人の資本論」
「経済学の宇宙」と読み進むうち、少しは岩井理論が見えてきた感じ
がします。
初手に読むのも、この『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』はとっ
つきやすいと思います。
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