大分断
教育がもたらす新たな階級化社会
エマニュエル・トッド/著 大野舞/訳
出版者 PHP研究所 2020.7
1.概要
歴史家、文化人類学者、人口学者という言葉が、肩書にマッチ
するエマニュエル・ドットさんかと思います。
本書は、教育こそが格差を拡大し、民主主義を破壊していると
主張します。
先進各国で起きている分断の本質の要因として、財政の硬直化、
民主主義のプロセスが蝕まれていること、移住が不活発になった
こと、所得と社会的地位による社会的分断が進んだこと、子ども
が過保護になったこと等、詳細に分析しています。
持ち論、明るい結論が導き出されるわけでなく、社会的分断は
避けられないとの現状認識でしょうか。
2.本文中からの引用
今回も、私のへたな要約などせず、章に分けた引用です。
いつも書くように、「あらすじ」や「主題抜粋」などではなく、「私の
お気に入り」です。
はじめに
民主主義というのは本体、マジョリティである下層部の人々が力を
合せて上層部の特権階級から社会の改善を手にしようというもので
す。ですから、民主主義は今、機能不全に陥っている。私はそう考
えるわけです。そしてこの機能不全のレベルは教育格差によって決
まるのです。 P4
1章:教育が格差をもたらした
今日、前述したように教育の発展は止まってしまい、さらに高等教育
を受けているのは、社会の一部でしかない、という事実も明確になり
ました。高等教育は特権的な職業に就くための一種の資格のようにな
り、本来の意味での資格の意義は失われました。 P25
現代社会の共通点は、単純に不平等が顕著になってきているというだ
けではありません。ただの経済の機能不全でもありません。共通して
いるのは、支配階級が目的を失っているという点です。 P36
2章:能力主義という矛盾
(学力の低下に関して)
私はどちらかというと子供たちが読書をしなくなっているということ
に理由があると思っています。テレビやテレビゲームができる前の時
代、子供たちは読書をしているか、そうでなければ退屈していたので
す。私は退屈というのは進歩のための大切な要素だと信じています。
P52
社会がどこへ向かっているのかということを観察、検討することのほ
うが、なぜこうなったのかという問いを立てるよりも興味深いことで
す。それぞれの社会によってたどる道は異なるということは確かです。
P58
3章:教育の階層化と民主主義の崩壊
先進国は今、どこももたついています。今持つべき目的は、何か素晴
らしいことをしようというのでなく、酷すぎる状態になってしまうの
を避けることです。 P85
4章:日本の課題と教育格差
今の中国は新たな全体主義システムを生み出したところですから、日本
は今のところアメリカと同盟関係を結ぶしか選択肢がないわけです。
でもだからこそ、私は「日本は核武装したらよい」と考えます。 P97
日本が核武装をすれば中国との関係は大きく変わり、この規模の異なる
二国間の平和はほぼ永久的に約束されると思います。 P98
これからの日本に必要なのは「少しばかりの無秩序」であると私は謹言
したい。男女間での無秩序、家庭内での無秩序、そして移民を受け入れ
ることで発生する無秩序。日本社会のように完璧を常に求めることは、
ある程度発展した社会では逆に障害になってしまうからです。 P106
5章:グローバリゼーションの未来
世界化された私たちは変わらず残り、英語は世界樹で浸透し続け、イン
ターネットという名の帝国もさらに拡大していくでしょう。しかしそれ
と同時に、新たな地政学的な配置が立ち現れるのです。 P118
民主主義とは、ある土地で、ある民衆が、お互いに理解できる言語で
議論をするために生まれたものでした。民主主義の思想には、土地へ
の所属ということと、外からくるものに対する嫌悪感が基盤にある
のです。 P124
6章:ポスト民主主義に突入したヨーロッパ
フランスの根本的な問題は、社会的に落ちこぼれた一部の若者の残念
な戸惑いだけではないのです。私たちが、弱り続けている若者たちを
社会に取り込めなくなってることこそが問題なのです。 P148
7章:アメリカ社秋の変質と冷戦後の世界
アメリカと中国の紛争は3つの側面あり。貿易、軍事、文明の3つ。
全体主義で警察によって監視されたいる中国は民主主義を脅かす存在
とみなされているからです。(中略)
アメリカはロシアと接近することで中国の潜在軍事力を大きく弱める
ことが可能になります。 P173,174
3.最後に
当たり前ですが、世の中にはいろんな考えかた、モノの見方があります。
ドット氏は、新型コロナ問題の見解でも、少し取り上げていますが、私が
考え方の軸とするひとりです。世の中は、常に動いています。
ひと月もせず、米国大統領選挙の結果も出るでしょう。
私なりに、確り現実を捉えていきたいと思っています。