「悪」が変えた世界史 下
ヴィクトル・バタジオン/編
出版者 原書房 2020.11
1.概要
下巻のほうは、 ランドリューから毛沢東、ビン・ラーディンまで
絶対悪を体現する歴史上の人物という評価で、10人を取り上げてい
ます。
もちろん、誰を「悪人」と取り上げるかは、すべからく著者の主観
でしょうが、リストアップされた人物は「さもありなん」と思われ
ます。しかし、彼らは実際にはどんな人物で、どこまでが事実で、ど
こからが神話だったのかの判断は、極めて難しいものです。
著者群によると、枕詞が、「共産主義の食人鬼・毛沢東」、「知られ
ざる虐殺首謀者ポル・ポト」となるようです。
他の著書からの情報が多い人物もあり、「いろんな見方」の参考にな
ります。
2.本文から引用
刺激的・ウケ狙いだと、どうしても残酷シーンの列挙になりそうですが
あえて避け、著者の「考え方」を中心に引用します。
革命とは、客を招いてご馳走することでもなければ、文章を推敲し
たり、絵を描いたり、刺繍をしたりすることでもない。そのように優
雅で穏やかで上品なものではない。
革命とは蜂起、暴力である。一つの階級が別の階級を打ち倒す暴力行
為なのだ。 P43
イディ・アミン・ダダ
アミン・ダダは、おめでたい素朴者と狡猾さ、ユーモアと不信感、残
酷さと滑稽さが独特な形で混ざり合った存在だった。何が滑稽なのか
わかっていない彼の存在そのものが道化だった。 P117
イディ・アミンは「人は銃弾より速くは走れない」といった辛辣な言
葉を非常に好んでいた。だが、銃弾は一つも彼をしとめることはでき
なかった。
2003年8月16日、20世紀最悪の暴君の一人は病死した。ついぞ刑罰を
受けることはないままに。 P122
ロエスピエールは、御託を並べずに、人を断頭台に送り込む「清廉の
士」だった。だだ一つの過ちは、じつは非常い大事なことだが、きっ
ぱりと決断を付けられないことだった。これが彼の命取りになった。
ここから得られる最も重要な教訓は、カンボジアに帰ったら、決して
同じ過ちを犯さないことだ。 P135
サッダームのすべての戦略は、こうした衆人環視の粛清と、自身の権
威づけという劇場的手法の延長線上にある。まずは、その精力的で悪
魔的、そして際限のない恐怖政治である。悪の凡庸化だ。
あらゆる反骨心の芽を摘んで骨抜きにする。 P177
見せかけもしくは本音の称賛と、手段的恐怖がまじりあった複雑なシ
ステムが出来上がった。 P181
この体制は二重の伝統の恩恵にあずかっていた。
宗教的伝統
2.個人とシェイク(部族長)とを結ぶ恒常的な絆に立脚する
部族の伝統
オリエントのスペクタクル史劇は、しばしば復讐劇の風合いを帯び
る。このバグダードの残虐王の死から10年の月日が流れたも、過激派
は殺し合っている P185
ビン・ラーディン
カール・ヴィンソンの甲板に運ばれ、ただちに沖合に水葬された。
ホワイトハウスの意向で、痕跡を残さず、墓碑もなく、世界中に
ジハード主義者や「解放者の族長」を信奉する者たちの 神話の場
となることが無いよう配慮されたのだ。 P205
ビン・ラーディンの築き上げた組織はこれで終わったのだろうか。
とんでもない。「国際ジハード」の動きは続いている。志願者は
後をただず模倣する者が増えて多様なテロリストが生まれている。
P206
3.最後に
世界史上で、「悪人」を定義しようとしたら、またランク付けしよう
としたら、それこそ収拾はつかないでしょう。
人間ですから、いろんな個性があり、局面局面での判断の違いもある
はずです。包括的理解・評価は無理で、「結果」からの一部の評価抽
出は可能でしょう。
一時的にせよ、何らかの権力(暴力装置)を維持していて、自分の判
断(直接・間接アリ)で、たくさんの人を死なせた、ということでし
ょうか。